ある日、ゴーシュと一緒にお風呂へ入って、私だけが先に出てきた時の事だった。

「今日もいいお湯だったなー」

久しぶりにバスタオル一枚で体重計に乗ったら、体重を指し示す針がいつもの体重よりも大幅にオーバーしている。そのショックな現実に、私は思わず叫んだ。

「いやあああっ!」

どったんばったん!

「リーシャ!?」

すごい音がしたと思ったら、浴室から慌てた様子でゴーシュが出てくる。よく見ると、髪の毛からまだ水が滴っていて、本当に慌てて出てきた事が分かった。

「今の叫びは一体何があったんです!?またゴキブリでも出たんですか!?」

ゴーシュは素早く辺りの様子を確認してから、バスタオル一枚で立ち尽くす私を見つめた。

「え、えーと…」

まさか、太ったのがショックで思わず叫びましたとも言えなくて、曖昧な笑みを浮かべる私。

「………なるほど。そういう事でしたか」

ゴーシュはつかつかと歩いてきたと思ったら、私の乗ってる体重計を覗き込んで納得したように呟いた。

「見ないでよ!」

「そう言われましても…」

慌てて体重計から降りて文句を言っても、ゴーシュは困ったように笑うだけ。私はむぅーと頬を膨らませる。

「最近、よく甘いものを食べてましたよね。配達帰りに」

「あう…」

くすりと笑ったゴーシュの言葉は、紛れもない事実で。反論さえできなかった。

「この辺にもちょっとお肉が付いてきたので、リーシャはしばらく甘いもの禁止ですね」

バスタオルの中にゴーシュの手が入ってきて、私のお腹のお肉をむにっと摘まれ、甘いもの禁止令が出された。その後、私の叫び声が再び響いたのは、言う間でもなかったりする。



「甘いもの、食べたいよー」

ここ最近、この言葉がすっかり口癖のようになってしまった。それぐらい甘いものが食べたくてしょうがない。禁止されてるから余計に、なんだろうけど。

「このまま太ってもいいんですか?」

「うっ…」

ゴーシュの一言を聞いて、言葉に詰まる。甘いものは食べたいけど、当然痩せたいわけで…。

「でも、やっぱり甘いもの食べたい!」

結局、食欲には勝てなかった。甘いもの、食べたいよー…。

「その言葉は聞き飽きました。もっと他に目を向けたらいかがですか?」

「だって、甘いもの食べて幸せ感じたいんだもん…」

ゴーシュの私を窘める言葉に、口を尖らせて言い訳する。

「つまり、リーシャは僕といるよりも、甘いものを食べて幸せを感じたいと?」

「そんな事ないよ!ゴーシュと一緒にいられて幸せだよ!ただ、甘いものも食べたいだけなの」

言われた言葉は予想外で、慌てて否定した。でも、甘いものを食べたい事のアピールは忘れない。そんな私を見て、ゴーシュがくすりと笑った。

「そこまで甘いものが欲しいんでしたら、いくらでもあげますよ」

「本当!?」

「ええ、本当です」

思わず顔を輝かせた私がゴーシュを見ると、彼は何故かにこにこと楽しそうな笑顔を浮かべている。

「どこ?甘いもの、どこどこ?」

「ここですよ、リーシャ」

そう言われてゴーシュを見上げると、何故か迫ってくる彼の顔があった。え?という疑問の声は言葉にならなくて、口の中で溶けて消える。

「んっ…」

思わず声が漏れた。重なった唇。絡み合う舌。ゴーシュと交わすキスは、いつだって甘くて、気持ちいい…。いつもよりも長く重なっていた唇が離れた後は、頭がぼーっとしてくる。

「どうです?十分に甘いでしょう?」

問われて、こくんと素直に頷いた。キスの余韻が醒めやらぬまま、私はゴーシュの首に手を回す。

「もっとして?」

じっとゴーシュを見つめると、彼は一瞬驚いたような顔をした。そして、今度は荒々しく唇が重ねられる。さっきよりも激しいキスに、私はどんどん溺れていくのだった。



「ねえ、今度甘いものが食べたくなったら、またキスしてくれる?」

「リーシャが満足するまで、いくらでもしますよ」

嬉しくて思わずゴーシュに抱きついたら、優しく頭を撫でられる。私はぎゅっと抱きつく腕の力を強くした。




甘いキス

―――――
うちのヒロインは食欲旺盛だなと思った事で、できたお話です。

それにしても、甘いキスをいつでもしてもらえるヒロインが羨ましいですね。きっとダイエットなんてすぐ終わっちゃいそうです。で、また甘いもの食べ過ぎて〜の以下エンドレスになりそうな…。

2010.10.22 up
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -