「ねえねえ、聞いた?ゴーシュ・スエードの話」

「あー、うん、聞いた聞いたー。首都アカツキへの栄転話が来てるんでしょ?」

配達も終わり後は帰るだけの私の耳に、ゴーシュ・スエードという聞き慣れた恋人の名前が聞こえてきて、思わず足を止めた。

「そうそう。そのゴーシュ・スエード、アカツキ行きをオッケーしたらしいよ」

「ええー、恋人もいるのに行っちゃうの!?その恋人、かわいそう」

続く言葉に、血の気が引いていくのを感じる。だって、ゴーシュの恋人は私で。ゴーシュがアカツキ行くという事はつまり、私は置いて行かれるという事で…。

「ゴーシュを探さなきゃ…」

居ても立ってもいられずに、全速力で駆け出した。嘘だよね?大好きなゴーシュが、私を置いて行くなんて、そんなのありえない。だって、ずっと傍にいてくれるって、あの時約束してくれたもの。

「ゴーシュ!!」

足が棒になりそうなぐらい館内を走り回って、私はようやく目的の人物を見つけた。

「リーシャ、どうしたんですか?そんなに息を切らして」

ぜーはーぜーはーと肩で息をする私を心配そうに見るゴーシュ。ああ、今日もゴーシュはかっこいい…って、違う。私はゴーシュに聞きたい事があるんだ。

「ねえ、ゴーシュ。アカツキへ行くのって本当?」

「…どこでその話を?」

私がさっきの話の真相を聞いた途端、ゴーシュの顔が目に見えて変わった。恋人としての優しい表情から、テガミバチとしての誇りを持っている表情へと。そして、否定しないゴーシュに、私はあの話が本当だと知った。

「さっき、ちょっとね。それより何で?どうして、私を置いて行くの?」

私の大好きな人。大切で大切で、ゴーシュが傍にいてくれるなら、他は何も望まない。私の世界と言っても過言じゃないぐらい、大事な存在のゴーシュ。そのゴーシュがいなくなるなんて嫌。そんなの絶対に認めない。もう失いたくないよ。

「約束したじゃない!ずっと一緒にいてくれるって!嘘だったの!?」

「嘘ではありませんよ」

ゴーシュの制服を掴んで問い詰める私。彼はそんな私をぎゅっと抱きしめた。いつもならこれで落ち着くけど、今は逆だ。この温もりを失いたくないと、どんどん私を追いつめていくばかり。

「じゃあ、何で!?」

「僕はヘッド・ビーになるのが夢です。そのためには、アカツキに行かなくてはならない。だから、リーシャにはここで待っていて欲しいんです」

ゴーシュは優しく優しく、丁寧に言い聞かせるように話しながら、私の頭をそっと撫でてくれる。だけど、私は離れたくない一心でしがみついた。

「嫌よ!行かないで!私はゴーシュと離れたくない!」

「リーシャがそう言うと思ったので、期限は明後日まででしたが、もう返事を出しておきました。僕は何があっても、アカツキに行ってヘッド・ビーになります。だから、それまで大人しく待っていて下さいね」

私の必死の訴えもゴーシュには届かなかった。逆に、私がこう言い出すと読まれて、先手を打たれていた。その事実に、こころが冷え込んでいく。

「離して」

私は一声かけて、ゴーシュから離れた。ねえ、分からないよ。アカツキに行ったら会えなくなるというのに、勝手に決めて。しかも、私が訊くまで教えてくれなかった。それで私は本当に恋人なの?恋人だからこそ、話してほしかったのに。

そっか。やっと分かった。ゴーシュにとって、私はもうどうでもいい存在なんだね。だから、教えてくれなかった。そういう事だったのね。



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