「お前等のせいだ!」

「鎧虫に襲われたのは、お前等テガミバチが来たせいだ!」

ぶつけられる言葉の暴力に、私は一人、為すすべもなく立ち尽くした。

「今すぐこの村から出て行け!」

「テガミバチなんか、二度と来るな!」

見知った村の人達の冷たい眼差しが、言葉が、私のこころを切り裂いていく。

「リーシャ、何故だ?」

「どうして、私達を助けてくれなかったの?」

虚ろな瞳でこちらに近づいてくる両親の姿に、私は後ずさりながら叫ぶ。

「いやあああっ!!」

そして、私の目が覚めた。

「また、この夢…」

起き上がって、はあ…はあ…と息を整える。ふと時計を見ると、まだ朝にはほど遠い深夜の2刻。

「レイラ、ありがとう」

レイラが私を元気付けるように、ぺろぺろと私の頬を舐めてくれた。私はそんな彼女にお礼を伝えて、優しく頭を撫でる。

「大丈夫。私はもう平気。悲しみは乗り越えたんだから」

自分にそう言い聞かせてから、再びごろりと横になった。今までの経験上から、眠れないと分かっていても。



その日の配達帰り、私は山道をとぼとぼと歩いていた。

「テガミを届けに行ったら、まさか平手打ちされるなんてね…」

苦笑いしながら叩かれた頬をさすっていると、すりすりと慰めるようにレイラが私の足に擦り寄ってくる。

「心配いらないよ」

心配そうなレイラに声をかけて、私はさらに歩き続けていた。

それにしても、ここ最近は夢見が悪くて寝不足だし、今日は配達先の人に平手打ちされるし、あまりいい日じゃないなと思って、大きくため息を吐く。こんな日は、もっと悪い事が起きそう…。

「きゃあっ!」

そんな時だった、足元の石に躓いて転んでしまったのは。立ち上がろうとして気付く。足首が痛い。どうやら、また足を捻ったらしく、自分のドジっぷりに泣きたくなる。

「私なら大丈夫だから」

じっと私を見つめるレイラに笑いかけてから、痛みを我慢して立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。ハチノスに戻ったら、医務室行かなくちゃね…。

「はあ…はあ…」

足を引きずりながら歩いていく。捻っていない方の足を酷使しているせいか、そちらの足も痛くなってきた。

「もう、だめかも…」

足の力が抜けて、ばたりと地面に倒れ込む。心配そうなレイラが私の顔を覗き込んだ。ごめんね、レイラ…。そう思いながら、私は意識を手放した。



ふと感じたのは、揺られるような感覚。何だろう?と思って目を開けたら、何故かゴーシュの顔を下から見上げる形になる。

「………何で?」

思わず漏れた疑問の声。意識がはっきりしてきて分かった。私、ゴーシュに横抱きにされてる!?

「リーシャ、君は無理しすぎです。倒れている姿を見て、僕がどれほど心配したか…。一体、何があったんです?」

慌てた私の耳に聞こえてきた、ゴーシュの静かな言葉。

「な、何でもないよ…」

何となく理由を言う気になれなくて、私は咄嗟に誤魔化した。悪い事がたまたま重なっただけ、だから…。

「何でもない人が倒れているわけがありません。それに、リーシャの右足首。腫れていますよ」

「…躓いて転んだだけだよ」

足首の事を指摘されて、渋々と転んだ事だけを話す。

「それでは、何故左の頬が赤くなっているんですか?」

「配達先の人に平手打ちされちゃった。もっと早くテガミを届けてって」

さらに頬の事も指摘されたから、苦笑しながらそちらの事も話した。もっと早く届けてと言われても、速達じゃないから無理なのに…。

「では、最後に聞きます。何をそんなに落ち込んでいるんです?」

「え?」

驚きに思わず顔を上げて、まじまじとゴーシュを見つめる。視線が交わった。

「転んで足を捻った。平手打ちされた。それぐらいの事なら、いつもおどけて話してくれます。でも、ここ最近は違う。もっと他に何かあるんじゃないですか?」

私の事を心配する眼差しに、胸がどきりとする。何で、気付いちゃうのかな…?



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