回想が終わって、私は目を開けた。懐かしい想い出がよみがえり、自然と顔が緩む。あの後、いろいろと大変だったなー。

「それから、私はホイットマン博士の元で勉強して、この部屋の開設に漕ぎ着けたの」

「この部屋はアカツキに旅立ったゴーシュの置き土産でもあったんですね…」

だけど、ラグのしみじみとした言葉を聞いて、急に切なさが押し寄せてきた。今ここにゴーシュがいたらよかったのに。

「いつかゴーシュに会えたなら、あなたのおかげで夢が叶ったと伝えたい。私がどれだけゴーシュに感謝してるかも…」

「マナ…」

俯くマナに、私は名前を呼ぶ事しかできなかった。

「まさかスエードの話で盛り上がっているとは、偶然だな」

突然ガチャリと扉が開いて、ジギー・ペッパーのディンゴのハリーを腕に乗せた博士が入ってくる。

「博士!」

「どうかしたんですか?」

「ラグ・シーイング、リーシャ・フィゼル。もしかしたら、スエードの手がかりが掴めるかもしれんぞ」

「本当ですか!?」

私とラグの声が重なった。ゴーシュの手がかり、それは私もずっと探し続けていたものだったから。

「実は五年前、スエードにこんな話を聞いた」

そう言った博士から聞かされた話は、ほとんどが初耳だった。ゴーシュがハニーウォーターズの町への配達途中に、精霊になれなかった者と名乗る人物と接触していたなんて。私にはちっともそんな素振りを見せなかったのに。

「イかれた男の戯言だろうと私は笑ったが、スエードが消息を絶つと、その話が気になってね。ジギー・ペッパーに機会があれば、探りを入れてくるよう頼んでおいた」

「ジギー・ペッパーに?」

「私、そんな話をゴーシュから聞いた事ありませんよ?」

驚いているラグを横目に、私は博士をまっすぐに見つめる。何で、私には教えてくれなかったの?という思いを込めて。

「それは当然だ。フィゼル、お前には言うなと、スエードに固く口止めされていたからな」

「何で…?」

知らなかった事実を教えられ、思わず疑問の声が漏れた。ゴーシュは、私に何も言わなさすぎるよ。アカツキに行くのだって、必要にならなきゃ教えてくれなかった。後から知らされるのって、とても悲しいんだよ…。

「スエードは、お前には心配をかけたくないと言っていた。あいつはそういう奴だよ」

「ゴーシュ…」

私は彼に想われていた。改めて実感したその事実に、不覚にも泣きたくなる。

「で、さっきの話の続きだが、どうやらその町に本当にいたらしい。精霊になれなかった者が」

「え?」

まさか実在していたとは思わず、驚きの声が出る。それは私だけじゃなかったようで、みんなと声が重なった。

「シーイング、君には物の記憶が見える心弾がある。この五年間、一歩も進展がなかったスエードの消息。そのきっかけが掴めるかもしれない。私がこれから書くテガミを君に届けてほしい。ハニーウォーターズの、精霊になれなかった者へ」

「分かりました!」

ラグが元気よく返事をする。嬉しいよね。ゴーシュの手がかりが見つかるかもしれないんだから。私も行きたいなと思って、口を開く。

「博士、私も行っていいですか?」

「いや、行かなくていい。むしろ行くな。もし行って、お前に何かあったらスエードが悲しむ。ましてや、その原因の一端が私にあると知られたら…。あいつはお前の事になると怖いからな」

博士の答えに、むぅーと頬を膨らませた。手の届きそうな所にゴーシュの手がかりがあるというのに、私は行くなだなんて…。

「リーシャ、僕が行くから大丈夫だよ。必ずゴーシュの手がかりを掴んでくるからね!」

にっこりと笑うラグに、何も言えなくて。私は渋々と、ハニーウォーターズの町へ行く事をあきらめたのだった。




記憶のポプリと夢繋ぐノート

―――――
ゴーシュが配達から帰ってきて、ベッドに倒れ込む場面。あそこでヒロインに膝枕させたい!と思った結果、書きあがったお話です。

過去での博士とゴーシュとのやりとりの後、マナが戻ってきて、何かあったの?と不思議そうにしてる場面もありましたが、長すぎるのでカットしちゃいました。

2010.09.25 up
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -