今日は、ゴーシュがユウサリで過ごす最後の日。夕ご飯は思いっきり奮発して、三人で楽しく食べた。そして今は、しっかりゴーシュに甘えていたシルベットも眠りについた深夜。
「いよいよ明日だね、ゴーシュがアカツキ行っちゃうのは」
「そうですね」
私はベランダに佇むゴーシュに、ぎゅっと抱きついた。こうして抱きつくのも、しばらくできないんだよね…。
「淋しいですか?」
「うん、しばらく会えなくなるから淋しい。ゴーシュは淋しくないの?」
一旦ゴーシュから離れて、私は彼の顔をじっと見つめる。明日にはユウサリの地を発つゴーシュは、今何を思っているのだろう?
「淋しくないと言ったら、嘘になりますが…」
ゴーシュはそこまで言ってから、私の顔に手を添えた。そのまま、触れるだけのキスをしてくれる。
「愛する家族が待ってるから、僕はがんばる事ができるんです」
夢へ一歩近づいて嬉しそうに笑うゴーシュに、私はそれ以上何も言えなくなった。
本当は、今でもアカツキに行ってほしくない。明日からのゴーシュがいない日々を考えたくなかった。いくら信じて待つと決めてても、ゴーシュの傍にいない日々が続くなんて、やっぱり嫌で…。
だけど、その気持ちを表に出すような事はしない。これ以上、ゴーシュの負担になりたくないから。
「リーシャ」
名前を呼ばれて顔をあげると、ゴーシュが私を心配そうに見つめていた。
「ゴーシュ、そんな顔してどうかしたの?」
私は内心を悟られないように、にっこりと笑って明るく振る舞う。今更、行かないでなんて言えるはずもない。
「無理、してませんか?」
言われて、びくっと反応してしまう。これじゃ、無理していると肯定しているようなもので。俯く私をゴーシュがぎゅっと抱きしめる。
「すみません。本当はリーシャを一人にしたくなかった。けど、今を逃したらアカツキに行けなくなってしまう…」
ゴーシュの切ない声音に、胸が痛んだ。やっぱり、私は彼の負担にしかならない。少しでもその負担を減らしたくて、咄嗟に口を開いた。
「私ね、本当は今でもアカツキに行ってほしくないと思ってる。でも、アカツキ行ってヘッドBEEになるのがゴーシュの夢なんでしょ?そのために、たくさん努力してきたんでしょ?だから、私を気にして夢をあきらめないで。前に、初めてアカツキ行くと聞いた時は突然の事で驚いて、反対しちゃったよ。だけど、ゴーシュはちゃんと私の事を考えて、結婚までしてくれた。とっても嬉しかったんだよ。人生のパートナーに私を選んでくれて、とっても幸せなんだよ。だから、私なら大丈夫」
最後に満面の笑顔を浮かべる。こうして考えてみれば、私は相当な幸せ者だ。恋が叶って好きな人と付き合って、そして結婚。少しの離れ離れがなんだっていうの。
「リーシャ…」
驚いた顔しているゴーシュに、私はさらに言葉を続ける。
「それでね、しばらく会えなくても大丈夫なように、たくさん可愛がって?」
「はいはい、しっかり可愛がってあげますから。そう言えば、リーシャからのお誘いは初めてですね」
私からの初めての誘いに、ゴーシュはくすりと笑った。その笑顔に急に気恥ずかしさを覚え、私はぷいっと横を向く。
「明日からしばらく会えなくなるんだもん…」
「嬉しいですよ」
ぼそぼそと呟くように言えば、ゴーシュはよしよしと頭を撫でてくれた。その手の感触が気持ちよくて顔を戻すと、にこにこと笑う彼がいて。
「さあ、行きましょうか」
そして、私はゴーシュに横抱きにされる。もうすぐ訪れるであろう快楽に、体の奥がじわりと熱を持つのが分かった。
「おはよう、ゴーシュ」
翌朝、おはようのキスをちゅっとして、私はにっこりと笑う。
「おはようございます、リーシャ」
今度はゴーシュからおはようのキス。同じように、ちゅっとして離れていった。
「アカツキ行っても、浮気しちゃだめだからね?」
テガミバチの制服へと着替え始めたゴーシュに声をかけると、彼の動きがぴたりと止まった。
「リーシャ一筋ですから、浮気なんてしませんよ。それよりも、僕のいない間にリーシャも浮気なんかしないで下さいね?」
ゴーシュはそう言って、まだ制服を着ていない私の鎖骨がある辺りにきつくキスをする。
「あんっ…」
思わず漏れる甘い声。赤い痕がたくさん付いた私の体に、一際鮮やかな赤が新たに付けられた。
「うん、私だって大丈夫だよ。ゴーシュ以外の男の人には興味ないんだから」
鏡を見ながら、赤い痕を指でそっとなぞっていく。ゴーシュが付けてくれたというだけで、嬉しくなるから不思議だ。
「お兄ちゃん、お義姉ちゃん、朝ご飯できたよー!」
一階からシルベットの声が聞こえ、私は大慌てで支度をした。ゴーシュはというと、しっかり準備ができているからすごいよね。私がのんびりしすぎなのかも。
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