「ねえ、私、本当に行ってもいいの?お邪魔にならない?」

「大丈夫ですよ。シルベットもリーシャが来るのを楽しみにしていますから」

ゴーシュと一緒に歩きながら、私は不安を隠せないでいた。恋人であるゴーシュの家への、初めての訪問。ご両親はいなくて、11歳年下の足が不自由な妹さんがいるスエード家。いくらゴーシュと付き合っているとは言え、私なんかがお邪魔していいの?

というか、お兄ちゃんを盗らないで!なんて言われたら、どうしよう。恋人の妹を敵に回したら、とても厄介だよね。うー、不安だ…。

「さあ、着きましたよ」

そんなこんなで、スエード家に到着してしまった。ここがゴーシュの生まれ育った家…。

「何しているんですか?行きますよ、リーシャ」

感慨深く家を見上げていると、ゴーシュに腕を引っ張られた。そして、彼がガチャリと玄関の扉を開けると…。

「おかえりなさい、お兄ちゃん!」

「ただいま、シルベット。今日はリーシャを連れてきたよ」

車いすに乗った可愛い女の子が出迎えてくれた。うわー、可愛いなー。私もあんな可愛い子が妹に欲しいかも。

「お邪魔します」

私は家の中に入って、片膝を付いた。そして、妹さんと目線を合わせてから、自己紹介する。

「はじめまして、私はリーシャ・フィゼル。あなたの事はいつもお兄さんから聞いているよ。優しくて可愛い自慢の妹さんだって」

「あなたがリーシャさんね!私はシルベットよ。お兄ちゃんから話を聞いて、ずっと会いたかったわ」

満面の笑顔で自己紹介をしてくれたシルベット。ゴーシュがどんな話を彼女にしたのか、とても気になる所だけど今は置いといて。

「はい、手土産どうぞ。美味しいって評判のお店のクッキーだよ。よかったら、お兄さんと食べてね」

持ってきた手土産をシルベットに渡せば、ありがとう!と受け取ってくれた。本当に可愛いわ、この子。ゴーシュが自慢するのもよく分かるよ。

「さあ、上がって下さい」

ゴーシュに促されて玄関から中へ上がってみると、いつの間にかシルベットがいなくなっていた。

「あれ?シルベットは?」

「キッチンですよ。クッキーを置きに行ってもらいました」

私が彼女の所在を訊けば、聞いてなかったんですか?と呆れたように言われてしまった。ちょっと訊いただけなのに。

「リーシャは座ってて下さいね」

ゴーシュに案内され、空いた席に座っておく。キッチンの方を見ると、シルベットが鍋を火にかけていた。小さいのにすごいよね。あ、ゴーシュがそっち行った。改めて見ると本当に仲いいな、あの兄妹。楽しそうな二人に、ちょっとだけ疎外感を感じる。しょうがないか。私はお客だしね。

「ホットミルクを持ってきましたよ、リーシャ」

「私が作ったんだよ!」

声をかけられて気が付くと、ゴーシュが湯気が出ているカップを乗せたトレイを手に持っていた。その後ろでは、シルベットがお菓子を持っている。

「ありがとう」

ゴーシュとシルベットからカップとお菓子をそれぞれ受け取り、まず彼女が作ってくれたというホットミルクを飲む。うん、美味しい。

「とっても美味しいよ」

私が感想を笑顔で伝えると、シルベットはぱあっと笑顔になった。そして、彼女は優しく微笑むゴーシュに頭を撫でられている。う、羨ましくなんてないんだからね。




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