「今日も疲れたね、レイラ」

ユウサリ中央のハチノスへ続く道を歩きながら、私はディンゴのレイラに声をかけた。彼女は返事をするかのように、私の足に擦り寄ってくる。

「ちょっと歩きにくいってば」

じゃれ合うように歩く私達。だけどそれも、前方にいる見慣れたテガミバチの青い制服を着た一組の男女を見つけるまでだった。

「あれは、…ゴーシュとアリアさん?」

その二人を認識した所で、思わず足が止まる。私の視線の先では、好きな人であるゴーシュとその幼なじみのアリアさんが、二人仲良く露店を覗いていた。恋人同士とも見える光景に、胸が痛くて苦しくなっていく。

「…行くよ、レイラ」

疲れた体にむち打って、気づかれないように早足で歩き出した。レイラには悪いけど、こればかりはしょうがない。もうこれ以上、二人の仲のいい姿を見たくないもの。

突然だけど、私はアリアさんが苦手だ。かつて、ゴーシュに幼なじみだと紹介された時からずっと。私よりも彼を知っていて、私よりも彼の近くにいる彼女。美人で仕事もできて、嫉妬しない要素がないくらい完璧な女性だった。だからずっと、彼女と必要外には関わらないように避けていた。

「クオン!」

ロダに鳴かれたのは、二人の会話が聞こえてきそうなぐらいの距離まで来た時だった。

「ロダ、どうかしましたか?…リーシャ?」

「ゴーシュ、ロダがどうかしたの?…って、あらリーシャじゃない。久しぶりね。今配達帰り?」

やばいと思ったけど、時既に遅し。ゴーシュとアリアさんに気づかれてしまった。こうなりたくなかったから、早く行こうと思っていたのに。

「ええ、お久しぶりです。今からハチノスに戻る所なんですよ。それよりも、お二人はデート中ですか?でしたら、お邪魔虫は退散しますね。失礼しました」

ぺこりと頭を下げて、逃げるように駆け出す。久しぶりに見たアリアさんは相変わらず綺麗で、私はますます惨めになった。私じゃ彼女に敵うわけがない。



館長に今回の配達について報告してから、ハチノスの外に出る。何だかんだで落ち込んでいたのを館長に気づかれ、理由を話していたらすっかり遅くなってしまった。

「ゴーシュ、もう帰っちゃったかな?」

「いえ、まだ帰ってませんよ」

空を見上げながら呟いた独り言に、予想外にも返事があって驚く。だって、まさか返事があるなんて思いもしなかった。

「え、ゴーシュ?」

「はい、本人ですよ」

名前を口にすれば、ゴーシュはふわっと笑った。もう帰ったと思ったのに、何で?

「何でいるの…?」

「ちょっとリーシャの様子がいつもと違ったので、気になって待っていたんです」

理由を問えば、答えてくれるゴーシュ。でも、私の気になる所はそれじゃない。

「アリアさんは?デートしてたんじゃなかったの?」

「違いますよ。彼女とはたまたま会っただけです」

「本当に?」

「本当ですよ」

ゴーシュの返答が信じられなかった。だって、あんなに楽しそうだったんだよ。私といる時よりもずっと。まあ、それも当たり前かもしれない。大切な幼なじみだものね。小さい頃からお互いを知ってるアリアさんが羨ましいよ…。

「でも、楽しかったんでしょ?いい顔してたよ、私なんかといるよりも」

「リーシャ」

自分を卑下する発言に、ゴーシュが眉を顰めるのが見えた。でも、口は止まらない。

「実はゴーシュ、本当はアリアさんが好きなんじゃないの?アリアさん、私なんかと違って美人で優しいもんね」

そう言って、私はにっこりと笑みを作った。今、嫉妬にかられているという自覚はある。暗くてどろどろな胸の内、全部洗い流せたらいいのにな…。

「彼女は幼なじみですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」

ゴーシュはきっぱりと言い切った。その様子に信じられると思った瞬間、 脳裏に浮かぶ二人の仲良さげな姿。胸に不安が一気に押し寄せ、疑心暗鬼になる。

「嘘よ!」

「嘘じゃないです」

大きな声を出す私に対して、冷静に話すゴーシュ。私は嫉妬の感情を抑えられないままぶつける。

「だったら何で、あの時に何も言ってくれなかったの!?」

「僕が何か言う間もなく走って行ったのは、リーシャでしょう?」

「………」

ゴーシュに言われて思い出す。確かにそうだ。何も聞かずに走って行ったのは私だ。何も聞きたくなくて、逃げ出したんだっけ。………って事は、もしかしなくても私が悪いの?

「大体ですね、どうでもいい人を外で長時間も待つわけがありませんよ。大切に思ってるからこそ、待っていたんです」

まさしくゴーシュの言う通りだった。さっきも言ってたじゃないか、気になったから待っていたって。言われた時はさらりと聞き流しちゃったけど。つまり、あれからずっと待っていたんだよね、ゴーシュは。悪い事しちゃったな…。

「ごめんなさい」

「分かっていただければ結構ですよ」

素直に謝った私に、ゴーシュは優しく笑ってくれた。その笑顔に、その優しさに、私は惹かれたんだ。自分よりも他の誰かを優先する人。その笑顔を、その優しさを、私だけに向けてくれたらいいのに。願わくは、いつかあなたの大切な人になりたい。



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