四カ月ぶりの朝だった。紺色の夜空の反対側でやっと太陽がくすぶっている。家の扉から飛び出した犬に次いで、僕も外へと歩み出た。灰色のポドゾル土をさくさくと鳴らしながら、僕は彼女の眠る家を目指した。視界は霧でまっ白くて、白くて、白かった。ただ彼女の家から漏れる淡いピンクの光と、あとぽつりぽつりと黒く枯れたひまわりの茎が突出しているのみであって、それ以外何にも人工物はない。枯れた黒い茎の周囲を夜光虫たちが元気に飛び回っている。遠くの丘では新しい星がごうんごうんと生み出されている。

数十分ほど手探るように歩くと、僕はようやく彼女の家へと到着した。不揃いな白樺で簡素に作られた小さなログハウスである。無造作に突き出たえんとつからは灰色の煙がもくもくと立ちのぼっており、ああストーブを焚いているのか、彼女は起きているのだなと僕は思った。僕は腰からシャンデリアのごとくじゃらじゃらと鍵がぶら下がったキーホルダーを取り出し、その中から彼女の家の鍵を探りあて、扉を開ける。
がちゃり。ぐ、ぎ、ぎ。硬くなった扉をこじ開けて僕は部屋に入る。無音の中に時計の秒針の音だけがかちこちと鳴り響いている。外の様子となんら変わらず、そこにも真っ白い霧が立ち込めている。彼女は何もない灰色の部屋のまん中の、白いチェアの上で丸くなって寝ていた。白い壁。白い霧。天井の隙間からはまだうっすらと星が見え、それから昇りかけてピンク色に燃える太陽の朝焼けが淡く射し込んでいる。ぎしぎしと僕が床を踏みながら近づくと、彼女がぱちりと目を開けた。色素の薄い白い睫毛が分離する。そこだけ赤い唇が開く。
「おかえり」
彼女は柔らかく笑ってそう言った。ただいま。僕は彼女のおでこにキスを一つ落とすと、抱えていた食糧をどさりと置いて、二往復目のために再び外へ出た。
日が再び沈み始めていた。朝焼けは休むことなく夕焼けへと変わってしまったのだ。白い、分厚い雲が空を覆わんとしている。はしゃいでいる犬を横目に僕はさくさくと灰色の土を踏む。振り返ると白髪の彼女が玄関に立って微笑んでいる。灰色の杖をついて、もうすっかり抜けてしまった曲がった腰に手を添えながら、しわくちゃの顔でにこにこと微笑んでいる。
白い白い白い白い。日が沈む瞬間、光が走って視界が真っ白になった。
気づいたら僕自身も白かった。無理もない。僕らが生を受けてからもう八十年も経つ。
西の方から朝を告げるラッパ音が聞こえると、ようやく僕らの町は動きはじめる。沢山の淡いピンク色や水色の光が灯っていく。犬が夜光虫たちと戯れている。骨がぎしぎしと軋む。遠くの丘では新しい星がごうんごうんと生み出され続けている。
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