昨晩の雨もすっかり止んで、空には青空がちらちらと垣間見えていた。ぼたんの葉っぱに垂れたしずくが、朝日に照らされながらきらきらとしたたっている。

 春だった。今日は春だった。明日も明後日も明々後日も、たとえ三ヶ月後も半年後も、この庭はずっと春だった。ここは永遠に春であろう。わたしがそうしたのだ。

 わたしはカーテンを開け放って、食卓に戻った。向かい側には、わたしのだいすきな人が、呆然と同じ庭を眺めながら、わたしの作ったスクランブルエッグをかちゃかちゃと食べている。この人は何も喋らない。この人はわたしと対峙したとき、いつもかなしそうな、今にもつぶれてしまいそうな、犬みたいな顔をする。わたしはその度に彼の頭に手を伸ばして、大丈夫だよ、と頭をなでる。

 わたしはきみを欲しかった。ただそれだけなんだ。
 きみの弱いところを笑って、なぐさめて、同じ庭のにおいを嗅いで、同じ春の雨を浴びて、同じように濡れて風邪をひいて、同じ言葉を発して、同じ夢を見て、ずっとひとつになりたかっただけなんだ。
 いまのところ、同じ夢をみること以外は、叶いそうな展望がある。同じ夢をみること以外は。

 ここはたまに雨が降り、太陽もよく照り、風も存分にふく。それらを使って庭の隅にある畑を耕し、食糧を得る。わたしたちはそれでやっていける、そう踏んだのだ。

 わたしは最後の望みである、同じ夢をみること、を叶えるため、今晩もこのひととおてて繋いで眠ります。おやすみなさい。


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