×無口美形
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「俺は今の自分に誇りを持っている!」
突然の俺の主張に、目の前で携帯型ゲームをいじる友人は興味なさそうに「ふむふむ、」と相槌を打った。
「影が薄くてなんぼ!名前を覚えられなくてなんぼ!周囲に溶け込むことの何が悪い!これぞ控えめな日本人の精神なんだよっ!シンプルイズベスト!」
「カタカナ発音止めていただけますかね、佐藤さん。」
「将来の夢はサラリーマン!ちなみにこんな平凡な俺ですけど、苗字は日本一多い佐藤じゃありません!金子です!!」
「あー、もう何言いたいのかわからない、この人。」
始終ゲーム機から目をそらさない友人に向かって、俺は強く右手を握り締めた。
「つまり、俺が何を言いたいかというと!」
それから、今までの間ずっと俺の横で、俺のシャツの裾を握り締めながらコクコクと居眠りをし続けていた美形を指差した。
「今のこの状況は非常に困るわけだよ、田辺さん。」
「うん、長い前置き要らなかったよね。」


こんな冷たい友人は置いといて、状況を説明しよう。
俺、金子涼太は全寮制男子校に通うごく平凡な男子高校生であった。
どれくらい平凡かと言うと、さっき田辺が呼んでいたようにクラスメイトから素で「えーと、ねぇ、あの・・・佐藤君!」って呼ばれるレベルで平凡だ。金子だよ。1文字も被ってねぇよ。だなんて思うのは、だいぶ昔に諦めた。
そんな俺がある日の放課後、委員会も終わり教室に戻ったところ1人の人影があった。
もうだいぶ遅い時間だったし、誰もいないと思っていた俺は恐る恐る机に突っ伏して眠っているその人物に近づいた。
夕日が反射してきらきら輝く色素の薄い髪、透き通るような白い肌。長い睫毛が頬に影を落としている。生徒会などが在籍する特進クラスではない、一般クラスに居ながら唯一親衛隊をもつ人物、追川翠(おいかわみどり)であった。
「うっわー、超美人じゃん・・・」
人気のある彼をこんなに間近で見たのは初めてで、思わず感嘆の声が漏れる。
そして、ここからが俺の人生で最大の過ちである。
下校時間も迫っていて、いくら夏が近いとはいえ教室は幾分か冷えていた。あたりに人影はない。眠る彼の肩が寒そうに、わずかに震えた瞬間、俺はその肩を掴み揺すっていた。
「おい、追川。起きろ。」
ゆっくりと、何度か瞬きを繰り返しながら澄んだ目が俺を捉える。
そこまできて、俺はあることに気がついた。
俺は、彼が話しているところを見た事がなかったのだ。
噂によると彼は人嫌いで、クラスメイトと会話をしないしつるまない。
いつも1人で寝ているか、本を読んでいるかのどちらかだ。
どうしたものかと、視線を彷徨わせていると彼は軽く身を縮めた。
「寒いのか?」
頷いたわけでもない、答えたわけでもない。ただ、俺の目を見つめ返してきたそこに肯定を感じ取り、俺は自分のカーデガンを脱いで彼に羽織らせた。身長は俺のほうがいくらか高かったおかげですんなりとカーデガンを2重で着せることができた。
「もう遅いから帰るぞ。」
ぼんやりと、俺の着せたカーデガンを見つめる彼の頭を撫でてうながすと彼はゆっくり立ち上がった。
しかし、今度は其処から動かない。
「・・・追川?」
まだ何かあるのかと顔を覗きこむと、彼の右手がわずかに挙がって、すぐに力なく垂れ下がった。
(あぁ、もしかして)
俺達は何か大きな勘違いをしていたのかもしれない。
そう思って、彼を驚かせないようにそっと優しく彼の手をとった。
「行こう。」
彼がもし人嫌いじゃないとしたら、
ただ上手く自分の意思を伝えられないだけだとしたら、
俺達は今までどれだけの孤独を彼に与えてきたのだろう。
細くて折れそうな彼の手を握る力を、少しだけ強くすると、ちょっとだけ彼が笑ってくれた気がした。


「それだけで、こんなに懐かれるなんて・・・」
「いやそれは自分でフラグ立ててんだろ、確実に。」
冷たい友人の対応に、おいおいと泣き崩れると不意にくいっと服のすそを引かれた。
「・・・何、追川。」
寝てたんじゃないのか、と思いながら隣の彼を見上げるとわずかに目が潤んでいるようにみえた。
反射的にわしゃわしゃと頭を撫でてやる。
「別に迷惑なんて思ってねぇから、大丈夫。」
「・・・・。」
「うん、いいよ。好きなだけココに居れば。」
「・・・・。」
「あぁ、今日の放課後は委員会だから。」
「・・・・。」
「何?待っててくれるの?わかった。」
「・・・もうお前ら結婚すれば?」
「はぁ?何言ってんの田辺、馬鹿?」
わけわからないことを言ってる田辺は置いといて、追川の頭を撫で続ける。
もうこれは完全に絆されちゃってるけど、嬉しそうにする追川を見ていると「まぁ、いっか」と思ってしまうのだった。



その頃の田辺の心境
(なんで追川何も言ってねぇのに会話成立すんだよ、)
(てか、お前と話すたびに追川に睨まれるんだよ、気づけバ金子。)
(もうお前ら、まじイチャイチャすんなら他所でやってくれ・・・!!)



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100406




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