花骸の糧
3
 


「あれは、父上たちが、勝手に話を進めてるだけだ。・・・絶対に、承諾なんかしない」


両親の想いとは裏腹に、基本人にその意思がなかった。
そして、それでも強引に話を取りまとめようとする彼らに対し、とんでもない行動を起こしたのである。


「あなたも意固地ですね。――なんでも、姫君からの文を全て焼かせてしまっている・・・とか」
「・・・」


御簾越しからも感じる視線に、相変わらず顔を顰めたまま彼は無言を返した。
それこそが噂の真偽を物語っていた。

咲子の言うように、大納言の姫君から送られて来る文は、全て一瞥することなく、女房たちに命じて焼かせてしまっていた。
親の言いつけを守って律儀に文を送る四の姫には気の毒だったが、残念ながら基に婚姻の意思はない。
そしてそれは、両親に向けた彼なりの密かな抵抗でもあった。


「基は、誰とも恋をしたくないのですか」
「・・・別に、そう言う訳じゃない。ただ・・・大納言の姫とは、気が乗らないだけだ」


両親に同じことを言えば、何十倍ものお小言が付随されて返って来るであろう曖昧な言い訳を、だが、彼女が諌めることはない。
それなら問題ありませんね、と嬉しそうな声を弾ませるだけだった。


「大納言の姫君と恋をする気がないのなら、わたくしの我侭を聞いて下さっても宜しいでしょう?」


小さな衣擦れの音が響き、咲子が廂のすぐ近くまで身を乗り出したのが分かった。
途端、彼女の香りが強くなり、基はそれだけで言葉に詰まった。
それに追い討ちをかけるように、御簾の隙間から白い手が差し出され、彼のそれに重ねられる。
花が綻ぶように、彼女が笑ったのが分かった。



「――わたくし、死ぬ前に一度、あなたと恋がしてみたいのです・・・」



いつもと変わらない静寂の中で、咲子の甘い言葉だけがうるさく鳴り響いた。


***



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