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あの夜、豪炎寺くんに運んでもらったホテルでそのまま僕はぐっすりと眠った。
いつになくすごく幸せな気分に浸って。

ひとりで目覚めた翌朝は、言い様のない喪失感に襲われ途方にくれたけど…………ベッドサイドのテーブルに書き置きされたメモを見て、温かい涙を滲ませる。

『楽しかった、ありがとう。またLINEする 豪炎寺』

「らいん………?」
くしゃくしゃの頭を掻きあげながら、僕はぼんやり呟いた。

僕、豪炎寺くんのLINEなんて知らないし……………

「えっ…………てか、交換してるしっ!」

立ち上げたLINEのトークに“知りあいかも?”の欄に“豪炎寺修也”がいるのを見て、一気に目が覚めた。


それから僕らは、をやりとりするようになった。

Shiro Fubuki : 明日オフなんだ。仲間とビアガーデン行って、今帰ってきたよ

豪炎寺修也 : 背負われてか?

なっ……!

Shiro Fubuki : 違うよ!!ひとりで!!!!


膨れながら返信を打つ僕。
豪炎寺くんは言葉少ないけど意外とマメで。その短い言葉は僕の感情のいろんなところを揺らしたり擽ったりした。


爆熱苑で二人で会ってから、ちょうどひと月が経とうとしていた。

梅雨空の下、昨夜のLINEが今でも僕をそわそわさせていた。

>Shiro Fubuki : 君の決勝シュート凄かったね!! 今ニュース見て、興奮して声あげちゃった

豪炎寺修也 : どんなだ?興奮した吹雪の声聞きたい


ドキン―――という音が部屋に響くかと思うくらい、罪な返事に胸が高鳴る。
返事に困っていると、さらにトークが届いた。

豪炎寺修也 : 明日会いに行っていいか?

Shiro Fubuki : 明日?僕ゲームだけど

豪炎寺修也 : 知ってる。観戦に行くから、その後会おう


もう……何が何だかわからない。
豪炎寺くんの試合日程はどうなってるんだろう?やりとりのさなかに僕はアントラーズのスケジュールをネットで調べた。
その最中の画面にまたメッセージが飛び込む。

豪炎寺修也 : こっちは次の試合までしばらく空いてる。お前も明後日のオフは休めないか?


震える指で、返事を送った。

Shiro Fubuki : いいけど



それからずっと地に足がつかないまま、今に至ってる。


翌日の試合。
豪炎寺くんが観てると思うとすごくそわそわしたけど、開始のホイッスルと共に張り切った気持に切り替わってむしろ集中できた。
シュートも決めた。

でも、試合が終了した途端にてんで駄目だ。
招待席にいる彼の方を少しも見れずに、俯いたままグラウンドを後にする。

いつもより火照ってる頬と肌。
冷たいシャワーでさましてゆっくりと着替えを済ませた。

彼が僕に会いに来る。二人で会える仲になれたのが嬉しいくせに、なんだか少し怖い気もした。
欲求をひとつ満たすたびに、ひとつ欲張りになっていくから。

豪炎寺くんは……ああ見えて優しくて、構ってちゃんな僕の心を受け止めて付き合ってくれているんだろう。
でも………このまま甘えてばかりじゃ駄目だよね。

彼にだけは、いつもふと寄りかかってしまう僕。
初めて会ってまもない頃にも、ずっとひとりで抱えてきたものを一気に吐き出してしまったことがある。
あの高架下で…………。

あのときな僕を、彼は甘やかさなかった。
大人になっても相変わらず僕の弱さを、今日の彼はどう扱うんだろうか―――――?


「いい店だな」

「でしょ?……誰かと一度来てみたかったんだ」

その名のとおり宝石を敷き詰めたような夜景を見下ろせるレストランでのディナー。
誰かと、なんて方便だ。
一度でいいから“君と”来たかった。

「綺麗だな」

「そうだね……あ…」
思わず一瞬息を呑む。
「……夜景のこと……だよね?」

豪炎寺くんは真っ直ぐ僕の顔を見つめて、肯定も否定もせずに少し目を細めた。

会話はたまに途切れても、滞らない空気が心地好い。
有名な夜景スポットの山頂にあるレストラン。平日だったし急なお願いでも個室を用意してもらえた。
展望台には人が多いけれど、ここなら二人だけの非日常をひそかに楽しむことができる―――


ワインのボトルを空けながらゆっくりと食事し、スタッフからロープウェイの最終時間を案内されて店を出た。

平日の最終便。ロープウェイの車両には僕らしか乗っていない。

「えへへ、長居しすぎちゃったかな」

「そんなことない。ただ……」
豪炎寺くんは窓の外に目をやりながら言う。
「誰とでもこういうことは、しないでほしい」

「え……」
レストランで僕が『誰かと来たかった』と言ったこと気にしてる?

“どうして君がそんなこと言うの?”
とも
“じゃあ夜景見たくなったら、また君を誘っていい?”
とも訊けなくて、僅かに頷くだけの僕。

豪炎寺くんも、黙ってずっと窓の外を見ていた。

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