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Under the Rose
ある朝〜新天地にて


「吹雪…」

日の昇りかけた明け方。

まだ愛し足りない恋人の肌を探って手を差し伸べ、乱れたシーツの上を掌でなぞる。

「吹雪?」

そこには愛しい気配はなくて……
あいつ…もうハウスに出かけたのか?

俺は上着を掴んで外に出た。



朝靄の中、ひんやりと湿った新鮮な空気を吸い込みながら細い砂利道を踏みしめて数分歩く。

そして若いアイビーの絡まる門をくぐり薔薇園に足を踏み入れたとき、吹雪のひそひそ声がそよ風のように鼓膜に届いて……

「ふふ……このことは彼には秘密だよ」

俺がハウスに踏み込むと同時に吹雪が薔薇を背に振り返る……
その楽しげな表情に俺は頬を緩めた。

「朝早くから薔薇たちと何の話をしていたんだ?」
「…豪炎寺くん」

おはよう、とキスを交わすけれど
今朝一番の挨拶と会話は薔薇たちに先を越された訳だ。

「ん………チュ///っ…………はぁ……」

挨拶にしては念入りなキス……濡れた唇を離すと吹雪は頬を紅潮させて「……見られてるよ」と含羞むように目を伏せる。

「見守られてるんだろう。それとも俺が羨まれているかな」
俺は冗談めかして肩を竦め、自分の目で薔薇の状態を見て回りはじめると……



「あっ///ねえ、豪炎寺くん……!」
とハウスの奥から吹雪の弾んだ声が俺を呼ぶ。


「見てっ、これ………」

白く細い指が差した場所には、薄い桃色の薔薇が羞じらうように花弁を開いていた。

「今朝来たばかりの時は、膨らんだ蕾だったのに…」

それはこの地に渡って初めて吹雪が交配した新品種だった。
吹雪が作る前から名前を決め、色ばかりでなく形や香りにまでこだわったもので―――

ー輪咲いたその薔薇を見たとき、吹雪の想い描く幸せのかたちを重ねて思わず目を細めた。

「まさに "羞じらう乙女"のような可憐な薔薇だな…」
「えへへ///のろけ話を聞かせすぎちゃったかな」


薔薇の名前はスウィートハピネス。
鼻先を近付ければ、夢見るような甘さの中に凜としたアクセントが調和した清純な香気に魅せられる。


ひとつだけ……昔のことを訊いていい?

俺の横で吹雪がそっと切り出し、俺は頷いてその横顔を見つめる。

「僕が君に初めて抱かれたあの晩…」

吹雪はまるであの時を思い起こすように目を閉じて吐息を溢す。
「君は僕の策略に気づいてたんだよね?」

「…………ああ。何となくは…」

「じゃあどうして自分から罠に飛び込んだりしたの?」

吹雪の潤んだような綺麗な瞳がぱちっと開いて、俺の心まで覗き込むように見上げた。

「君が、飲み慣れないアブサンをストレートで煽った時なんて……驚いて息が止まりそうだったんだから…」

俺の無茶なハッタリを今更詰るように眉をひそめる吹雪が可愛くて、額に口づける。

「罠……と言うより、背伸びして咲こうとする固い蕾を見るに忍びなかったんだ」

「はぁ?」
俺の答に吹雪は呆れたように目を見開く。
「結局蕩かして抉じ開けたのに?」と。

呆れるようなその表情すら愛らしくて、俺は込み上げる笑みを噛み殺しながら白状した。

「そうだな、じゃあ正直に言おう。お前が欲しくて堪らなかったからだ」
「え……?」

「まどろっこしいのは性に合わなくてな……」
「あ……」

花弁の重なりに分け入るように吹雪の唇の隙間に舌を挿し入れると、零れる吐息の甘さと温もりが、起きがけのベッドで覚えた渇望感を呼び起こす。

「一秒でも早く欲しかった」
「……んっ///は……ぁ…」

すまないな…結局はお前を抉じ開けてしまったが……と首筋を撫で上げた唇を耳元に寄せれば

「いいんだよ。君が季節を狂わせ咲かせる魅力的な男だったのさ」と、少し上擦った艶かしい声とともに俺の頚にしなやかな両腕が回る。

「じゃあ…」

今からここでもうひととき、夢を見せて貰っても?―――と吹雪から絡む舌を焦らすようにほどいて訊ねれば、

また絡む熱い舌が…………答えの代わりだ。



ある朝〜新天地にて*完