×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


10jahren 3周年 ☆ 拍手お礼文

* h o m e *


「クスクス…」

いつもどおりに淡いブルーのスーツをバッチリ決めた豪炎寺くんを見てる、助手席の僕の笑いは止まらない。

「………笑いすぎだ」
「え〜だってぇ」

この状況を見れば僕の気持ちも分かってもらえると思う。

豪炎寺くんが片手で颯爽と操るハンドルは、いつもの赤いスポーツカーのそれではなくて―――
軽トラのアロハ柄のハンドルカバーなんだもの。

ルームミラーからさげられた小ぶりのレイが背の高い彼の視界に悪戯を仕掛けるように軽やかに揺れている。

でもとにかく、窓全開で走る国道は最高に気持ちいい――!

6月とは言え真夏みたいにカラッと爽やかな海風は、不思議とノスタルジックに僕の胸をきゅんと締めつける。

ここは、沖縄。
故郷とは真逆の島なのに―――。


「あ……手伝うよ」

トラックごと借りてきた大きなタイヤを荷台から下ろす豪炎寺くんを手伝っていると、

"会長、お疲れ様です"
"これが噂の特訓タイヤ?それ俺たちが運びますよ"

とスタジアムから走り出てきた2人のスタッフがタイヤに手を添える。

「いや、俺も裏山へ行く。括り方のコツがあるんでね、それを教えておこう…」

激しく当たっても外れて吹っ飛んで行かないようにな………と豪炎寺くんは、"吹っ飛ばす"発言にドン引きのスタッフに淡々と言ってのけ「吹雪は音村と一緒に子どもたちのプレイをみてやってくれ」と僕に真っ直ぐ目をやった。

「えええっ、君、音村くんだったの?髪伸びたしサングラスしてたから全然分かんなかったぁ」
「フフッ、そういう君は、全然変わらないな」

しばらく会ってない仲間とも昨日顔を合わせたばかりみたいに馴染むのは、サッカーの魔法だと思う。

* * *

あれから僕はひとしきり子どもたちと
フィールドを駆け回って。


「会長さん♪お疲れ」

空席のスタンド中盤の席にぽつりと座っている豪炎寺くんを見つけた僕は隣に腰かける。

「こんなとこにいたんだ」

彼は優しい目でこっちを見て、ゆっくり頷く。


「ここは、お前を見初めた場所だからな」
「…………え?」

一瞬、意味が呑み込めなくて。

もちろんこのスタジアムが君と初めて出会った場所なことは覚えているけど…。

「あの日、この席からお前を見てた…」
「…………」

そう呟く豪炎寺くんの視視の先には、今は活き活きとサッカーボールを追いかける子供たちの姿がある。

「皆、素晴らしいプレイヤーだよね」
「そうだな、今日は特に吹雪選手参入のお陰で格段に輝いているし、な」


僕らはしばらく無言でグラウンドで繰り広げられる白熱したプレイを見つめた。

彼が作りあげた少年サッカー教育プログラムに" 練習 " という言葉はなく"プレイ"だ。
もちろん、プラクティスの要素はふんだんに盛り込まれてるけど、意識の上では無い。

いつも本番、いつも戦い。失敗してもいい、ただフィールドに立つときは―――常に本気。

そして " 指導 " という言葉もなく、あくまで "育成" の姿勢を貫く。


君がサッカーを並々ならぬ想いで愛してることは昔から知っていた。

そして、復帰をいまかいまかと待ちわびる人々の視線に晒され続けながらも末だ現役という舞台に背を向け、会長という立場からサッカー少年たちを見つめる君の目の色の深さは、否が応にも僕の心を促えて離さない。

"豪炎寺修也の今いるべき場所はここなんだ"と
僕に確信させるだけの愛情がそこにあるから。

「…………ふふ」
「…………どうした?」
「僕ら…………子だくさんになっちゃったね」
「///?」

協会会長として、こうして全国を飛び回る日々。

船木さんはフィールドワークが多過ぎる会長のこといつも気に病んでるけど、豪炎寺くんにはこうしてたくさんの " 家 " と 待ってる子供たちがいるから仕方ないことなんだと思う。

「さっきさ、子どもたちに…おかえり〜って言われたよね?」
「…………ああ」

「…………幸せだね」
「……ああ」

穏やかだけど、力強い返事が僕の胸を温める。

君が自分フィールドを捨ててまで取り戻したかったのはこの、未来の輝き……
それは、かつての僕らが纏っていたものに違いなくて。


二人、フィールドを見つめたままで
ふいに君の手が僕の手に重なった。

「吹雪……」

振り向くと豪炎寺くんの黒い眸がじっと僕を見つめてる。

「あの日、この場所にいた俺が、お前に心奪われてから……」
「?……」
「今までずっと……ひとときも目が離せないんだ」

「…え///」

嘘だぁ?と聞き返す言葉を熱いキスで封じる君の攻め口はいつも真正面すぎて、読めてるのに防げない。

それに、今のは反則―――。

あの頃の、青春ならではの輝きを回顧していた僕に突如としてぶりかえしたのは、
初恋の甘酸っぱいときめきで。


「っ…………ほら、皆裏山に走りに行っちゃったよ。行こっ」

迂闊にも溢れてしまった涙を見られないように指先で拭いながら、僕は慌てて立ち上がった。

「……そうだな」

豪炎寺くんも立ち上がり「行くか」と僕を通り過ぎて先に歩いてく。

すれ違いざま トン、と肩を軽く小突いて行った仕草は……フィールドで僕を励ます時の彼の癖だった。



おかえり、僕らの恋心。
* home * 完