冷血鬼神の素顔


最近思うのです。鬼灯様って実は照れ屋なんじゃないかと。
冷血だとか血も涙もないとか言われているあの鬼神様が。
付き合って数ヶ月。鬼灯様の行動がだんだんわかってきました。

私のデスクの近くにあからさまに落ちている雑誌。表紙には「料理特集」と大きく書かれている。
これはきっと鬼灯様からの遠まわしの要求です。

普段何事にも臆さずストレートに物を言う鬼灯様は、こういうことには慣れていないようで。
この間だって私を抱きしめたときの口実が「つまずきました」だった。
そんなことが最近多い気がする。



「鬼灯様、今日は私が夕飯を作りました」
「…頼んでないですよ。あなたも忙しいのにわざわざそんなこと」

嬉しそうです。鬼灯様、そう言いながら嬉しそうじゃないですか。
言葉と行動が伴っていない。素早い動きで椅子に座って、礼儀正しく手を合わせたと思ったら頬張ってます。
いつもは私が座るのを待って一緒に食べ始めるのに、なんだかこの光景を見ていると私も嬉しくなってしまう。

「名前さんは食べないんですか?」
「食べますよ。鬼灯様がおいしそうに食べるからちょっと観察しちゃいました」
「…お腹が空いてたんです」
「たくさん食べてください」

鬼灯様のためにたくさん作った。きっとこれくらいなら簡単に平らげてしまうだろう。
もきゅもきゅとリスのように頬張る姿がなんともかわいらしい。
そんな様子を見つめていれば、鬼灯様は私に気がついてごくんとご飯を飲み込んだ。

「その、おいしいです」

そう言うとふい、と視線を戻して箸を伸ばす。やっぱり鬼灯様は照れ屋だと思う。
赤くなってるとか見るからに焦ってるとかではないけど、いつもより言葉が躊躇いがちになる。
このギャップに私の心は鷲づかみされるのだ。

「頑張って作ったかいがありました」

決して自分から「作って」とは言わないし、感想もそれだけだけど、胸いっぱい。
にこにこしながら鬼灯様を見つめていたら思い切り睨まれました。





夕飯も終え、一日で少しだけの自由時間。一日の大半は仕事に仕事。
だからこうして寝るまでの時間は好きなことができる。私の好きなことは、こうして鬼灯様と一緒にいることなのだけど。
鬼灯様はこんなときでも難しい勉強をしている。確か薬学の研究だっけ。漢方がどうとか。
ベッドに寝っ転がりながら、机に向かう後姿を眺めているのは楽しい。

「名前さん」
「なんですか?」
「じっと見られると落ち着かないのですが」

バレてました。くるりと振り返る鬼灯様は読んでいた本を持ってベッドに腰掛けた。
ちゃっかり私の座るスペースを作っちゃって、まるでここに座れと言っている様。
体がぶつかるくらいに座ってみれば、鬼灯様は気にせずに本を読み進めていた。

覗き込んでみれば私の知らない薬の名前がいっぱい書いてあって、全然わからない。
鬼灯様はそれに気がついたようにふと口を開いた。

「今日も仕事大変でしたね。疲れました」
「そうですね。お疲れ様でした」
「…名前、疲れました」
「はい…」

これはまた私への要求です。
一度これを聞いて鬼灯様を抱きしめた(抱きついた)ことがあって、それ以来鬼灯様はそうして欲しいときにこう言うのだ。
自分から抱きしめてもいいのに。でも決まってわざとらしく「疲れましたね」と言う。
だから私は自然に鬼灯様に抱きつくのだ。

「私も疲れました。癒してください」
「…しょうがないですね」

そう言って抱きしめ返してくれる。プライドの問題なのか、ただの照れ屋さんなのか。
どっちにしても、普段とのギャップで私の心はきゅんきゅんなわけですが。
甘え下手というかなんというか、もうたまらないです。
だからつい鬼灯様を困らせてみたくもなる。鬼灯様から少し離れて顔を合わせれば、鬼灯様も視線を合わせてくれた。

「鬼灯様、何も言わずに抱きついてくれていいんですよ?」
「はい?」
「わざと私に抱きつくように言ってるじゃないですか。私は鬼灯様に抱きしめてもらいたいです」

バレてないと思ってたのか、鬼灯様は罰の悪そうに視線を逸らした。
まただ。鬼灯様は照れると決まって左下を見る。

「恋人同士なんですから遠慮はいらないです。甘えたいときは素直にそう言ってください」
「名前さんに見透かされるとはなんだか悔しいですね」
「わかりますよ。鬼灯様のこと、好きですから」

あぁもう。こんな大の大人が、閻魔様より閻魔顔とか言われる鬼灯様が。
鬼灯様は今度こそ本当に照れたように顔を隠した。
あの強気で泣く子も黙る鬼神様はどこに行っちゃったのでしょう。

「こういうことは不器用なんですね」
「…こういう感情は初めてなもので」
「じゃあ、私が教えてあげます。甘え方」

ね?と笑えば、鬼灯様は誤魔化すように私を抱きしめた。
きっと私の見えないところで恥ずかしがっているのだろう。
いつも頼っている鬼灯様に頼られて私も嬉しい。

「やっぱり照れ屋ですね」

人前では絶対に見せない、私だけが知っていること。
そんな鬼灯様が大好きで。

「今日は隣で寝てもいいですか?」
「あなたが甘えてくるんですか」
「み、見本です!」

ゆっくり関係も進展していけばいいなって。
鬼灯様はそんな私に初めてのキスを落としてくれた。

「…こうですか?」
「はい!」

嬉しくて元気よく返事をすれば、鬼灯様はやっぱりふい、とそっぽを向いてしまった。
照れ屋で恋愛に関してはまるで不器用な鬼灯様。きっとみんながこれを知ったら驚くことだろう。
私だけが知っている、鬼灯様の意外な素顔。
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