怖くて眠れない


「こんな時間になんですか」
「鬼灯様…」

草木も眠る丑三つ時。
外は風が吹いていて、木々や窓を不気味な音を立てて鳴らしていく。
ここまで歩いてくるのもなんだか怖くて、部屋のドアを開けてくれた鬼灯様に思わず抱きつきそうになった。
危ない危ない。

あからさまに嫌な顔をする鬼灯様は、そんな私に早く用件を済ませろというようにイラついていた。
こんな時間に起こしてごめんなさい、だ。
しかししょうがない。変な夢を見てしまったのだから。

「中に入れてください」
「なぜですか」
「…一人でいるのが嫌なんです」

何かを察した鬼灯様は、少しの間のあと部屋に入れてくれた。
遠慮することなく部屋に入れば、鬼灯様はベッドに隣に腰を下ろした。
鬼灯様は言わなくても、私がどうしてここに来たのかわかっているだろう。

「また怖い夢ですか」
「はい…」

呆れたようなため息が聞こえる。そんなこと言ったって、見たものはしょうがない。
私は怖い夢が苦手。
鬼が情けないといわれればそれまでだけど、これを見ると眠れなくなる。
それどころか一人でいるのも怖くてたまらないのだ。

「子供じゃないんですから」
「すみません」
「…しかし、なぜ私のところに来るんですか」

どうしてって聞かれればほら、他に行くところがないし。
こんな情けない理由で匿ってくれる親しい友人なんて限られている。
そして部屋が一番近いのが鬼灯様しかいないのだ。

それに鬼灯様って意外と優しいから面倒見てくれるし。
この間だって怖くて眠れないって言ったら一緒にいてくれたし。
適当な理由を言っていたら鬼灯様は小さく舌を打った。

「ごめんなさい…」
「私は眠いんです。ここにいたいなら勝手にしてください」

ほら、やっぱり優しい。鬼灯様はそう言うとベッドに潜り込んだ。
時計の音だけが部屋に響く。たまに風で窓枠がカタカタと鳴り、いちいちそれに驚いてしまう。
本当は何か話をして怖さを誤魔化したかったのに、鬼灯様は寝てしまった。
うろうろと部屋を歩き回って、再び心細くなっていく気持ちにベッドに近づいた。

「何してるんですか」
「傍にいないと怖いんです」
「だからって布団に入りますか普通」
「勝手にしろって言ったのは鬼灯様です」

いてもたってもいられなくなって布団の中に潜り込む。
鬼灯様は迷惑そうに追い出してくる。
少しくらい慰めてくれてもいいのに。

「怖くて眠れないので、添い寝してください」
「私にそんなことをしてあげる義理はありません」
「少しだけでいいですから」

お願いします、と頼んだ声は震えていて、それがより私の恐怖心を表していたようだ。
無意識にぎゅっとしがみつくように抱きついたのも功を奏したのか、鬼灯様は許してくれた。
文句を言いながらも優しいから、私は頼っちゃうんだ。

これで安心して寝られる。鬼灯様が傍にいるなら怖くない。
そう思うと、だんだん私の心も余裕が出てきた。
そっか、こうやって抱きついていれば怖いことも忘れられるんだ。
妙に安心感のある気持ちに、さっきまでの恐怖心もなくなっていく。

そしてようやく冷静になってきて、あることに気がついた。
こう抱きついていると鬼灯様の心臓の音が聞こえる。それが妙に早いのだ。

「鬼灯様、心音が」
「黙れ。襲いますよ」

妙に低い声。近いせいかより迫力がある。冗談に聞こえないし、その目が怖い。
ただでさえイラついてるのに、強引に布団の中に入って抱きついて…。
よく考えてみると、すごく恥ずかしいことをしているような。
どうしようどうしようとオロオロしていれば、鬼灯様が私の名前を呼んだ。

「あなた、怖い夢を見たと言って私を誘ってるわけじゃないですよね?」
「え?」
「夜這いの口実じゃないんですか?」

そんなわけないじゃないですか。本当に怖い夢見て泣きそうになりながら来たんだから。
違いますと言っても鬼灯様は黙ったまま私を見つめている。
鬼灯様はそのまま私を優しく抱きしめ返した。

ちょっとあの。いや、私から抱きつきましたけど、抱きしめ返すのも自然な流れですけど。
あんなこと言ったあとにこれは…。

「こんな時間に来られたら……わかるでしょう?」
「も、もう大丈夫です!」

何が、と言われなくてもわかる。そこまで鈍感ではない。
そして夢よりもこっちの方が怖い。
戻ります、とその腕から出ようとするが出られない。
ぎゅっと体を抱きしめられれば動くことは出来なかった。

「ほ、鬼灯様…」
「…大人しくしていれば何もしません」

そう言われればそれに従うしかない。
でも今の言葉の最後になんとも頼りない「たぶん」が付け足されたのを私はしっかりと聞いた。
本当にこのまま無事に朝を迎えることができるのだろうか。
今夜はある意味怖くて眠れそうにない。
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