とんでもない人に目をつけられた


今日も今日とて仕事を終えた。
亡者をいたぶって拷問をして、書類整理に周辺視察。
忙しかったなぁ、なんて報告書を提出し戻ろうとしたところで、今一番会いたくない奴に会ってしまった。

我々鬼の中でもトップの鬼神―――鬼灯。

部署も違うし、そう顔を合わせることもない筈なのに、なぜだか必ず一日一回はお目にかかる。
この人が有名だということもあるだろうが、いつもいつも私が一人のときに会う気がするのだ。
最初は鬼灯様鬼灯様と浮かれていたが、今では会いたくない奴だ。
この人はSなのだ。ドのつくS。私を見つけるなりいじめてくる。
だからこの人を"奴"呼ばわりするのは仕方のないことだと思う。名前なんて呼ぶ必要はない。

「偶然ですね。こんなところで」
「……そうですね」

ここは閻魔庁。遭遇率は上がるが、人のいなさそうなところを通ったのになぜ会ってしまうんだ。
まさかストーカー。閻魔様にちくってしまおうか。

「私はストーカーじゃありませんよ」
「う…なぜバレたし…」

人の心を読まないでほしい。というか近づいてこないでよ。
どうせその伸ばしてくる手で、頭を叩くか頬を引っ張るかするんでしょう。
それともビンタか…。その手を避けながら後ろに下がる。

いじめるなら他の人にしてくださいとも言えずに、ズルズルと放置したのがいけなかったんだ。
ただのスキンシップと思っていた行動が今やただの暴力だよ!
いつの間にか殴られて放心したのはついこの間だ。歪んだ私の顔を見てこの人は笑ったんだ。本当にSだよ。

「逃げないで下さいよ。取って食うわけじゃあるまいし」
「取って食う方がまだマシです!毎日毎日チマチマと…」

いっそ取って食った方が潔い。
会っては暴力を振るわれちゃあこっちだってかなわない。
しかしこの人はわかっていて違う受け取り方をするのだ。

「ほう…そちらの方が好みでしたか。それは失礼」

なんなのこの人。いやいや、本当に。
私この人に捕まったら完全に調教されちゃうよね。
ドMにされてしまう。私はどちらかというとSだ。いや、そんなことはどうでもいい。
じりじりと後退していれば、余裕そうについてくる。
獲物を見つけてギラリと光る目は獣のようだ。
怖い。これなら素直に殴られておけばよかった。

逃げられない…と刺さる視線に苦笑いをしていれば、背中が何かにぶつかった。
壁だ。正確には扉。そしてその扉に描かれているのは"ホオズキ"の絵だった。

「いや、まさかね…」

まさかここがこの人の部屋だなんてこと。
というかいつの間に誘導されていたんだ私は。
背中にも額にも冷や汗が伝っていて、笑うしかなかった。
目の前の鬼はとぼけたように「そこは私の部屋ですけど」と言う。
「せっかくだから入りますか」じゃない。追い詰めたのは誰だ。

「心配しないで下さい。手加減しますから」

なんでこの人に目をつけられたんだという考えも消えてしまうほど、恐怖に身が震えた気がする。嬲る側が嬲られてどうする。

その日、鬼灯の部屋からは女性の悲鳴が聞こえたという。
[main][top]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -