花金鳳花


カーテンの閉まる薄暗い部屋で目を覚ました彼女は、ベッドが半分空いていることに気がついて起き上がった。羽織を肩にかけながら部屋を出ると、リビングでご飯支度をする鬼灯の姿があった。

「おはようございます、鬼灯様」
「おはようございます。体調はどうですか?」
「大丈夫ですよ。起こしてくれてよかったのに」

私がやります、とキッチンに近づくと、鬼灯は彼女の額に手を当てる。まだ微熱っぽいのを確認すると彼女の背中を押してキッチンから追い出した。

「体調が優れないなら無理しなくていいです、休んでなさい。昼間抜けられるので一緒に病院行きますか?」
「ただの風邪ですよ。心配しすぎです」

ふふ、と笑う彼女は昨日から風邪で寝込んでいた。一晩経って良くなったと説明しても、鬼灯は心配そうだ。
仕事での鬼灯を知っている彼女からすると別人のようで、自分だけに見せる姿だと思うと嬉しい反面、面白くもあった。あんなに眉間に濃い皺を刻んで心配しているというのだ。鬼灯の部下が知ったらどう思うだろうと、想像するとまた笑みが零れた。
そんな彼女を見て鬼灯はほっとしたように息を吐いた。

「元気そうでなによりです。昨日あんなに具合悪いとうわ言呟きながら寝込んでいたので、心配くらいしますよ」
「ごめんなさい。一晩中看病してくれたんですよね。お忙しいのにありがとうございます。鬼灯様のおかげで元気を取り戻しました」
「まだ本調子ではないんですから、今日は家のことしないで休んでてくださいよ。昼間見に来ますからね」
「ふふ、はい」

びし、と指を向けられ彼女は肩を竦めた。椅子に座るよう促されて腰を下ろすと、キッチンに立つ鬼灯を見つめる。急に凝った料理を作り始めることはあっても、朝から料理する姿を見るのは珍しいなと眺めていると、鬼灯と目が合った。

「なんです」
「いつもと逆だなあって」
「もうすぐできますよ。食べられそうですか?」
「え?」

鬼灯が火から持ち上げたのは小さい土鍋で、中身はお粥だという。まさか自分のご飯を作っていたとは思わず、彼女は目をぱちくりさせた。

「鬼灯様のご飯は……?」
「私は食堂で適当に済ませますよ」
「わざわざ私のご飯なんて作らなくてもよかったのに……」
「こういうときくらいやらせてください。いつも家のこと任せきりですから」

土鍋から食べられそうな分をよそうと彼女に差し出す。隣の椅子に座った鬼灯はいつになく彼女を気遣っていた。そんな様子に彼女は恥ずかしくなって顔を覆った。

「鬼灯様ってお姿に似合わずなんというか……うう、胸が痛い」

稀に見る優しさに不覚にもときめいてしまった彼女は、顔を染めて鬼灯を見つめた。熱に浮かされて夢でも見ているのではないかと、優しい彼に心がむず痒い。風邪を引いた甲斐もあったかもなんて考えていれば、彼女のことなどお見通しの鬼灯は呆れながら机に肘をつき、頬杖しながら彼女を睨んだ。

「ご飯食べて薬飲んで寝なさい」
ムッとした表情を見て、その顔にでさえ頬を緩めると、鬼灯は彼女よりも先に蓮華を手に取りお粥を掬った。ふう、ときちんと冷ましてくれて優しいなと思ったのも束の間、彼女の顎を強引に掴むと口の中にお粥を押し込んだ。

「さっさと食べる!」
「は、はい!あ、おいしい」
「はい、次!」
「ま、まだ無理です!」

待って待って、と手を振ると鬼灯は蓮華を置いた。なんだかいつも鬼灯様だと心が落ち着いて、彼女は自分で蓮華を手に取る。おいしいです、と笑うのを見て鬼灯は椅子の背に寄りかかりながら腕を組んだ。

「少し優しくしてみるとこうです。不満ですか」
「そうじゃないです。ちょっと恥ずかしくなるんです。優しい鬼灯様も好きですよ」
「私だってあなたを大切に思っているんです。こういうときくらい大人しく受け入れなさい」
「はい、ありがとうございます」

ぶっきらぼうで愛想は悪いけれど、ちょっぴり優しい鬼神様。彼女は嬉しそうに微笑むと、作ってくれたお粥を大事に食べ進める。
鬼灯は彼女を見つめながら、優しく頭を撫でた。首を傾げる彼女と見つめ合うと、すっと目を細めた。

「それに、今はあなた一人の体じゃないでしょう。心配もします」

お腹の中に宿るもう一つの命は、二人の新しい家族だ。なにかと心配してくれるのはそういうことなんだなと納得すると、余計に微笑ましくて、また恥ずかしくなる。彼女はそっと鬼灯の手を握った。

「そうですね。この子のためにも体調良くしないとですね」
「ええ。ですから、今日は大人しく休んでください」
「はい、そうします」

互いに手を取り合うと身を寄せた。新しい家族を感じるようにお腹に触れ温かさを共有する。じっと目を見つめる彼女に、鬼灯は頬に小さく口づけを落とした。
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