朝寝坊のあなたへ


「朝ですよ、名前さん。起きなさい!」

朝の忙しい時間、すやすやと気持ち良さそうに眠る名前の寝顔に、初めの頃は癒されもした気がするが、いつまでも起きないことを知った鬼灯は、朝から容赦なく名前を叩き起こす。それでも名前はちょっとやそっとでは目を覚まさない。

「なぜ毎朝毎朝起こさなきゃならないんだ」

何か手頃なものはないかと部屋を見渡して、こういうときのために用意していたものがあったと手に取る。一度素振りをすると、勢いよく腕を振りかぶった。大きなハリセンは気持ちのいい音を立てて無防備な名前に直撃した。
大きな音と衝撃に目を覚ました名前は、驚いたような顔で起き上がった。

「なんなんですか!痛い……なんなんですか!?」
「朝ですよ」

一体何が起こったのかわからない名前は痛みと状況整理に混乱していた。人を殴ったとは思えない澄ました表情で、ただ淡々と朝であることを伝えられ、名前は痛みに悶えながらその原因を探った。すぐに鬼灯の手に握られているハリセンだと気がつくと、信じられないという表情で鬼灯を見上げた。

「なぜそれで?どこにそんなものが」
「いや、金棒でもよかったんですけどほら、ベッドが血まみれになるから」

それはちょっと……と片付けの心配をする鬼灯に、名前は違うと呟く。聞いているのは道具のこではなく手段の方だ。なぜこんなにも痛い思いをして叩き起こされるのかと、同棲を始めたときのことを思い出す。目を覚まして隣に彼がいて、寝ぼけながら触れ合う甘い時間はもうないのだ。

「普通に起こしてくださいよ、普通に!」
「起こしても起きないからでしょうが」
「それは……そうですけど!なんかもっと、布団を剥ぐとか!」
「では、今度から布団を剥いでベッドから突き落としますね」
「どうしてそうなるんですか!」

悪びれもしない鬼灯の様子に肩を落とす名前は、叩かれた場所をさすりながら起き上がる。確かに起きない自分も悪いかとモヤモヤしながら支度を始めると、鬼灯はのんびりそれを眺めていた。

「あなたは文句ばかりですね。これでもあなたを起こすために試行錯誤しているんですよ」
「その結果ハリセンですか?どこで手に入れるんですかあんなの」
「自作しました。どうすればより苦しむか亡者で実験済みです」
「鬼灯様ってたまに頭おかしいですよね」

思わず本音が零れると睨まれて口を閉じる。怖い顔だなあと視線を逸らしてバタバタと支度を終えると、毎朝忙しない様子に鬼灯は呆れるのである。

「たまにはあなたが起こしてくださいよ」

名前の寝癖に手を伸ばしながら呟く鬼灯は、そっと頭を撫で付ける。ハリセン片手に楽しそうに話すときとは違う、ワントーン低い声は名前の弱点だ。う、とたじろいで頬を染める名前は、わかりました!と声をあげた。

「あ、明日は私が起こします!」

そんなことを言ってもどうせ自分が起こす羽目になるのだろうと思いながらも、名前の様子を面白がって鬼灯は彼女に期待を込めた言葉を落とす。

「頼みますよ」

ぽんぽん、と頭を撫でてから鬼灯は満足げな表情で部屋を出ていった。そんな姿に思わず見とれた名前は、はっと我に返って頭を抱えた。

「起きられるかな……」

そう独りごちながら明日の朝の様子を想像してみる。いつもと違う鬼灯様が見られるかも、なんてちょっぴり頑張ろうと決めると、先に行ってしまった鬼灯を追いかけた。
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