好きを伝える


同じ閻魔庁で働く同僚を好きになって数十年。そろそろ自分の気持ちに気がついて欲しい名前はさりげなくアピールすることにした。執務室を訪ね、書類に目を通す鬼灯に何の前触れもなく宣言する。

「鬼灯様、私好きな人がいるんです」
「そうですか」

いきなりの言葉にどう反応するかと期待していたが、鬼灯は興味なさそうに呟いた。
そこはせめて興味ありげに頷いてほしいところだ。なにもないように書類に文字を書き足し、次の書類には判子を押す。そもそも話を聞いているのかわからないが、名前は諦めずに言葉を並べた。

「ものすごくかっこいいんですよ」
「そうですか」
「頭も良いんです」
「そうですか」

しかし鬼灯は「そうですか」しか言わなかった。ここまで興味なしだとアピールの意味はない。もしかすると仕事の邪魔をするなと言っているのかもしれない。
唇を尖らせた名前は「そればっかり」と机に寄りかかった。

「なんと言ってほしいのですか」
「もうちょっと気になる素振りを見せてくれるとか…」
「聞いてほしいんですか?それならどうぞ、惚気てください」
「そういうことじゃなくて」

鬼灯に少しでもいいからやきもちを焼いてほしい。好きな人がいると言われれば自分かもしれないと気になってほしい。名前はそれを期待したのに鬼灯にとってはどうでもいいことのようだ。
すっかりふて腐れてしまった名前は、黙々と仕事を続ける鬼灯に少しだけ語気を強くする。

「優しくて意地悪なんかしてこない、笑顔が素敵な人です。鬼灯様と真逆でとっても良い人です!」
「…そうですか」
「またそれ……」

もうここまで来れば脈なしだろう。名前は失恋したような思いを抱え下唇を噛み締めた。

「もういいです。その人のところに行って来ます」
「行ってらっしゃい」
「…勢いあまって告白しちゃうかも」
「頑張ってください」
「……明日はもっと惚気ますから」
「はいはい」

ぽんと判子を押し書類を封筒に入れる。まだ鬼灯は一度も名前と視線を合わせていなかった。名前は俯くと顔を上げぬまま身を翻した。
ゆっくりと閉まるドアから見える名前の背中は、落ち込んでいるように小さかった。


***


失意のままとぼとぼと廊下を歩く名前はため息を吐いた。もう少し聞いてくれれば望みはあったかもしれないが、これでは告白する前から玉砕だ。
期待するほうがおかしかったかな、ともう一度息を吐こうとしたとき、突然後ろから包み込まれた。驚く名前は振り向けないまま、自分を抱きしめる見覚えのある着物を見た。

「どこに行くんですか?」
「ほ、鬼灯様?」

その声で確信を持てる大好きな人。名前はドキリとする心を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸をした。

「あなたが好きなのは私でしょう?どこに行くんですか」
「…知ってたんですか?」
「ええ、バレバレです」

とっくの昔から気づいていたと耳元で囁かれる言葉に名前は頬を染めた。
それならさっきの素っ気無い態度はなんだったのかと聞き出したいが、今の状況に名前の思考はパニック寸前だ。大好きな人に抱きしめられている。その事実だけで名前は胸がいっぱいだった。

「あなたのことですから、私にやきもちを焼いてほしかったのでしょう?」

肯定することもできずに言葉を詰まらせる。鬼灯は優しく名前の頭を撫でた。

「私に冷たくされてどうでした?こうして抱きしめられて何を思っていますか?」
「ひ、人の心をもてあそばないでください!わざとですか…!」
「素直に気持ちを伝えないあなたが悪いんです」

今度は叱るように少しだけ強く名前の頭を叩く。抱きしめる力を緩めれば、名前はくるりと振り返ると真っ赤な顔で鬼灯を見上げた。鬼灯は余裕そうな顔で名前の言葉を待ち、その表情に名前は頬を膨らませた。
どんな反応をするかわくわくと想像して、冷たくされて落ち込んで、抱きつかれて嬉しくなって。全部鬼灯の思い通りだと思うと少しだけ悔しい。名前はぎゅっと拳を握り締め、勇気を出した。

「鬼灯様のことが好きです!意地悪しないでください。私の想いに応えてください……」
「もちろん」

泣きそうな顔に手を添える。鬼灯はゆっくりと名前と唇を重ね合わせた。
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