ポニーテール


私のトレードマークであるポニーテールは、日々危機に瀕していた。
上司である鬼灯様が事あるごとにそれを掴むのだ。
「掴みやすいのでつい」から始まって、ときには取れてしまいそうなくらいの強さで引っ張られる。そういうときは必ず私が悪いのだけれど。
今日も今日とて頭の上の尻尾を目当てに手を伸ばす鬼灯様に、私は痛みを察知して目を瞑った。しかし想像していた痛みはこなく、優しく撫でられるのだった。

「ど、どうしたんですか。私の分身を優しく扱うなんて」
「これあなたの分身なんですか」
「鬼灯様が言ったんでしょう。ポニーテールのない私は私じゃないって」
「そうでした」

奇妙な鬼灯様に反論していれば、やっぱり引っ張られるのとはわけが違う。
なんだかくすぐったいような、じれったいような。それなら一思いに引っ張ってほしい。
抗議しようとすれば、ポニーテールを触る鬼灯様の表情がどこかいつもと違う。いつもよりなんだか顔色が悪いのは気のせいだろうか。
私の視線に気がついて、鬼灯様は力なく答えた。

「あなたからポニーテールがなくなる夢を見まして……恐ろしい」
「はい?」
「普段ぞんざいに扱いすぎているなと思って…大切にしなければいけないですね」

何を言っているんでしょう。大切にしてくれるのはいいことだけれど、なんですかその夢は。それに恐ろしいって。
大丈夫ですか?と心配していれば、鬼灯様はポニーテールをぎゅっと掴んだ。いつもよりは優しいけど、急に来るとびっくりする。
そして鬼灯様は急に大きな声を上げた。

「これがなくなったらどこを掴めばいいというのですか!これは唯一あなたをコントロールできる綱だというのに、なくなってしまったら思うように操れないではないですか!」
「あの、これで私のこと操ってたんですか?確かに行動は制限されますけど、視察のときとか…」

犬につけるリードのように、あっちに行こうとすれば引っ張られ、こっちに行こうとすれば引っ張られ。
鬼灯様は私のポニーテールを何だと思っているんだ。青い顔で何を心配してると思いきや、こんなことだ。

「そんなことを言うと本当に切ってきますよ」
「それはやめてください、困ります。本格的にあなたに首輪をつけなくてはならなくなる」
「……絶対に切りませんから安心してください」

首輪って聞こえたけど気のせいだろうか。私のトレードマークは首輪代わりだったんでしょうか。
本当にしかねない鬼灯様の言葉に悪寒を感じながら急いでそう言い繕った。絶対切らない。死ぬまで一生この髪型でいる。
ね、ね?と鬼灯様の心配してることが起きないことを説明すれば、ようやくいつもの鬼灯様に戻っていく。
安心したように引っ張るのは痛いですけど。

「それを聞いて安心しました。やはりあなたにはポニーテールが似合います」
「今の話を聞いた後だと全然嬉しくない……」
「生まれて初めて怖い夢というものを見ました。心臓に悪いですねぇ」

私の話なんか聞きやしない。鬼灯様はぶつぶつと呟きながら私の髪をいじっていた。
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