座敷童子と恋愛事情


仕事中でもひょこっと顔を出す座敷童子の二人は名前のことをとても慕い大好きだった。
二人に部屋はなくいつも閻魔殿のどこかで暮らしているが、最近はよく名前の部屋に遊びに来る。
休日になるとそれはもう名前にべったりで、名前もそんな座敷童子をかわいがっていた。

「もう少しで休憩だからちょっと待っててね」
「うん」
「ここで待ってていい?」
「いいよ」

難しい書類を覗いても何が書かれているかはわからない。二人は悪戯好きだが仕事の邪魔はしなかった。
むしろ獄卒の勤務態度を監視するような役目を果たしている。あるときは手助けをしているらしい。
ようやく書類をまとめた名前は両脇からぴったりとくっついている座敷童子の頭を撫でた。

「何かしようか?おやつ食べる?」
「えーとね」

やっと名前と遊べると無表情の喜びを表す座敷童子の言葉を遮るように執務室のドアが開いた。
顔を上げればやってきたのは鬼灯で、座敷童子の二人は名前にまたくっついた。
名前は二人に挟まれながら鬼灯に首を傾げた。

「鬼灯様どうしたんですか?今から休憩しようと思ったんですが…」
「ああ、仕事を持ってきたわけではないです。私も一緒に休憩しようと思って」

そうだったんですね、と頷いていれば、またしてもドアが開く。今度は誰だろうと開け放たれたそこに注目すれば、やってきたのは天国の住人だ。
座敷童子はすす、と名前の影に隠れながらやはりぴたりとくっついている。
鬼灯は白澤の登場に心底嫌そうな顔をした。

「なぜお前がここに」
「いいだろ別に。名前ちゃーん、休憩でしょ?僕とお茶しない?」
「え?いや…」
「今誘っているのは私です。割り込んでこないでください」

バチバチと睨み合っているのはいつものこと。苦笑する名前は足元にくっついている座敷童子と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
なにやら浮かない顔をしている。無表情だがいつも一緒に過ごしているとちょっとした変化にも気がつくのだ。
名前はうるさい二人を無視しながら二人の手を握った。

「どうしたの?」
「名前さんが取られる」
「私たちの名前さんを狙ってるのあの二人」

どうやらこの子供たちにも彼らの行動は読み取れるらしい。確かにあの二人は名前を狙っている。
座敷童子はやっと仲良くなって心を許した大人が離れてしまうと怖いようだ。
名前はそんな二人を安心させるように抱きしめた。

「大丈夫だよ。私は二人のこと大好きだから、絶対に離れたりしない」
「本当?」
「うん」

再び嬉しそうに二人で顔を見合わせれば無表情で喜ぶ。しかしそんなほのぼのとした三人に、睨み合っていた二人が乱入してきた。

「その隣に私がいてもいいでしょう?家族になってしまえばずっと一緒ですよ」
「こんな仕事の鬼より僕の方がいいよ。僕もいっぱい遊んであげる」

今度は名前にではなく座敷童子に迫っている。まず落とすべきは子供から。彼女たちの信頼を得なければ名前に近づくことさえできない。
そう判断したのか、鬼灯も白澤も目線を低くし猛アピールだ。白澤から頭を撫でられて、二子は蹴りを入れていた。

「こらこら、蹴っちゃだめだよ。というか二人とも、この子達嫌がってるじゃないですか」
「嫌がってるというか名前ちゃんのこと守ってるよね。完全に近づけない」
「まったく、現世からつれてきたのは私だというのに」

どうして懐いていないんでしょう、と鬼灯は首を傾げながら、名前の前に立ちふさがる二人を見つめる。白澤も困ったように笑いかける。
座敷童子はそんな二人をじっと見つめ、今度は名前を見上げた。

「名前さんが選ぶなら私たちは何も言わない」
「でもすけこましは嫌だ」
「それもうこいつ一択じゃん!」
「鬼灯様なら安心」

仕事もできるし常識もある。一方白澤はいつも女性とあそんでいるすけこまし。
まじめな人が好きな座敷童子にとっては白澤は論外である。しかし、だからといって鬼灯を推すわけでもない。

「でも鬼灯様は何考えてるかわからない」
「心の中ではすけこましと同じこと考えてるかもしれない」
「絶対そうだね。もしかしたら僕より酷いかもしれない」
「黙れ色魔が。お前と一緒にするな」

なんだか自分の知らないうちに妙な三角…いや、四角関係ができているなと名前は傍観しながらぼっこぼこにされている白澤に苦笑する。
鬼灯と白澤からの猛アピールは今に始まったことではないが、子供たちまで巻き込むとは思いもよらない。
当事者だが傍観している名前に、座敷童子は判断を委ねた。

「名前さんはどっちが好き?」
「え?別に好きとかそういうのは…」
「正直に答えて」

座敷童子の率直な疑問に男二人の鋭い視線が集まる。名前が決めたのなら座敷童子たちは文句は言えない。
名前の言葉を信じて受け入れる。鬼灯と白澤もどちらかが好きと宣言してくれれば多少は落ち着くかもしれない。
聞いている座敷童子よりも熱心なその視線に名前は戸惑いつつ二人を交互に見つめた。
どちらと言っても確実にひと悶着あると考えると答えづらい。
しかし可愛い座敷童子のためを思うと、男性二人から迫られている状態は好ましくない。
名前は頭を悩ませながら四人の視線にたじろいだ。

「や、やっぱりどっちとかは…」
「それは逃げですよ。はっきりなさい」
「そうだよ。どっちが好きだろうとあきらめるつもりはないんだから」
「それはそれで困るんですけど…」

じりじりと近づく二人に名前も後退する。座敷童子は見かねたのか再び名前にしがみついた。
名前とはもうずっと一緒に暮らしている。よく見ているしある程度のことは知っている。人を見極めるのが上手な座敷童子には名前の本心はなんとなくわかっていた。
よじ登ってくる二人を抱っこする形になれば、一子と二子が名前の耳元で呟いた。

「鬼灯様のこと気になってるでしょ。いつも鬼灯様のこと見てる」
「私たちが言ってあげようか?」
「い、いいです!別に私は…その顔やめて!」

至近距離で無表情に見つめられると怖い。つい敬語になってしまいながら名前は慌てて二人を下ろした。
なにやらこそこそしている三人に、鬼灯と白澤は気になりながら、しかし座敷童子のせいで近づけない。
名前は鬼灯をちらりと見ると背を向け、座敷童子たちと顔を合わせるようにしゃがみこんだ。

「いい?あくまで気になっているだけであって好きとかそういうわけではないの。鬼灯様のことは尊敬してるけど、恋愛感情とはまた別でね?」
「よくわからない」
「なるほど、そういうことですか…」
「そう…」

一人が理解すれば二人で相談すればどうにかなるだろうと頷く名前は、もう一人無表情が混ざっていることに気がつく。
後ろでは白澤が「痛ぇよ!」と殴られたのかわめいていた。
それよりも本心聞かれ名前はパニックを起こしている。慌てる名前の頭に鬼灯は手を載せると、話に入ってこようとする白澤に「まあまあ」と声をかけた。

「名前さんを困らせるわけにはいきませんし、今日のところはこれくらいにしましょう」
「何だよ急に。何を聞いたんだよ」
「別に。私はじっくりと名前さんと距離を縮めることにしますので」
「じゃあ僕はその前に名前ちゃんを手に入れるよ」
「まあせいぜい頑張ってください」

なぜだか余裕な鬼灯に白澤はぎりぎりと睨みを利かせる。
しゃがみこんでうずくまったまま顔を上げない名前の頭を優しく撫でれば、鬼灯は勝ち誇ったような表情で執務室を出て行った。
白澤は「何だよあれ」と名前の顔を覗き込む。しかし顔を隠しているのか表情は窺えない。

「名前ちゃんどうしたの?あいつがいないうちに僕とデートしよう」
「すけこましは帰れ」
「痛いっ!わかった、今日のところは僕も退散するから!」

ばしばしと追い払えば部屋が静まり返る。名前は赤くなった顔を上げながら座敷童子を抱きしめた。

「二人が変なこと言うから……もう、おやつ食べに行こう。好きなだけ食べさせてあげるから」
「やった」
「何にしよう」

ふるふると首を振りながら今あったことを消し去りたい。
甘いものでも食べて落ち着こうと、座敷童子を連れて外に出る。
三人で手を繋いで歩く姿を鬼灯は微笑ましそうに見送った。
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