男好きの扱い方


珍しくじっと机に向かって仕事をする名前は、どう鬼灯の目をかいくぐって出て行くかを考えていた。
今すぐにでもいい男を探しに出かけたい。今夜の予定を決めてしまいたい。
しかし鬼の中の鬼と呼ばれる上司が睨みつけているのだから、安易に飛び出していくことはできないでいた。

「イケメン降ってこないかなぁ」
「ありえないこと言ってないで手を動かしなさい」
「イケメンじゃなくても全然いいんですけどね…。そういえば閻魔大王って体大きいけど」
「それ以上喋ったら拷問しますよ」

一体何を考えているのか、彼女の素朴な疑問は最後まで言わせるようなことではない。
拷問しますよ、と言いながら手始めに巻物を投げつけてきた鬼灯に、名前は抗議する。
「大事な顔を傷つけないでください!」と。さらに痛めつけられるのは言うまでもない。

「獄卒っていいですよね。みんな力強いので夜の方も結構パワフルというか、優しいのもいいですけどやっぱり激しいのが」
「さて、熱湯にでも入りますか。これから視察なんですよ」
「え、ごめんなさい!つい考えてることが口に!」

懲りない名前には制裁が必要だ。鬼灯はゆらりと立ち上がって名前の首根っこを掴んだ。
ジタバタと暴れても鬼灯はびくともしない。そんなやりとりをしていれば獄卒が入ってきた。

「鬼灯様、この書類なんですけど…」
「ああ、アホが出し忘れてたやつですね。ありがとうございます」
「いえ……」

床にドサリと落とされ顔をぶつけた名前は鬼灯をキッと睨んだ。
そしてやってきた獄卒に笑いかけるのだ。

「この間の返事聞いてなかったですね。どうですか?私と火遊びしてみない?」
「い、いや…俺、彼女いますし…」
「そっか…じゃあ、別れたら教えでっ!!何するんですか!痛い……」
「埋めますよ」

書類を持ってきた獄卒は終始苦笑いしたままその場を去っていった。名前は相変わらず懲りない。
拳骨を落とした鬼灯は逃げようとする名前を捕まえて見下ろした。

「職場の男を漁るのはやめなさい。倫理上問題があるでしょう。あなたは第二補佐官という立場をわかっていない」
「真面目な話はわからないですよ…。それに、ちゃんと遊びだって理解してくれる人としかやってませんから」
「そういうことではないです」

まったく、と叱りつけるのは何度目か。この万年発情期は一度地獄に落としてやらないと直らないかもしれない。
床の上で正座して鬼灯の口うるさい言葉を聞く名前は、それでも頭の中はあれよこれよでいっぱいだ。
まったく聞いてないであろう名前の頭に手刀を落とせば、彼女は頭を抱えて丸まってしまった。

「あまり酷いと対応をとらざるを得ないですよ。今はトラブルなど起きてませんが、今後そういうことがあった場合……」
「だから鬼灯様が付き合ってくださいよ。そうしたら少しは大人しくします。仕事も頑張ります。鬼灯様も満足します。きっとこれが一番いい方法です……痛いっ!!」

丸まっているからちょうど蹴りやすい。さすがに女性を蹴飛ばすのはと金棒でゴルフショットを決めた。名前は金棒に殴られたところをさすりながら鬼灯を見上げた。

「いいじゃないですか!この前鬼灯様も楽しかったでしょう?なんだかんだ言って乗り気だったでしょう?」
「それはそれ、これはこれです」
「鬼灯様のむっつり!あれで満足したとしたら鬼灯様も大したことないですね。私もっとすごいんですよ」

鬼灯は名前を睨みながら近づいた。名前は恐怖を感じながらそれでもにやりと笑ってみせる。

「私を挑発しても無駄ですよ。それに「もうやめて」と最初に降参したのはあなたでしょう?」
「さ、最初から全部見せるわけないでしょう?わざと降参したんです。あそこから私の本領発揮なんですから」
「ほう、あんなに乱れて腰を抜かしていてもまだいけるというのですか」

う、と思い出して言葉に詰まる。最初は楽しく進んでいたというのに、煽ったせいで結局口も利けないくらいほだされてしまったのだ。
それでもその気持ちよさは忘れられない。

「実際、鬼灯様とのが楽しすぎて他の人じゃ満足できないんです。付き合ってくださいよう…」
「仕事もろくにやらない人を抱く気にはなりませんね」

冷たい返事に名前は唇を尖らせる。つまり、仕事をちゃんとやればいいのか。そうすればまた付き合ってくれるのか。
名前は書類の山を見ながら机を叩いた。

「これ今日中に終わらせたら付き合ってくれますか?」
「終わらせるのは当たり前です」
「じゃあ…鬼灯様の分も終わらせます。任せてください。鬼灯様は金魚草の世話でもしててください!」

やる気を見せるように小さく深呼吸をすれば書類に取り掛かる。
彼女の場合本気を出せば本当に鬼灯の仕事まで終わらせかねない。いつもその集中力を見せてくれればいいのだが、残念ながら脳内は男のことばかり。
しかしこれは使える。自分を餌に仕事に集中させることができるのだ。
鬼灯は体目当てで仕事を頑張る名前に一瞥くれるとため息を吐いた。

「きちんと第二補佐官としての仕事をこなしていれば、考えてあげないこともないです」
「本当ですか!?頑張ります!」
「…扱いやすい」

張り切り出す名前にその声は聞こえていない。どう迫ってこようと確実な約束をしたわけではないため追い払える。しばらくはこのまま仕事にいそしむ姿が見られるだろう。
脳内はいかがわしいことでたっぷりだが、仕事さえしてくれれば問題はない。
名前の扱い方を見出した鬼灯は、本当にここの仕事を片付けてくれるだろう彼女を残し部屋を出た。他にも仕事は山ほどある。
出て行く鬼灯に手を振りながら、名前は鬼灯とのお楽しみを想像しながら早速書類をひとつ書き上げた。
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