夜食


残業が長引き、夕食をとっていても小腹の空いてくる時間。
こんなことになるなら食堂でおにぎりでも貰ってくればよかった、と鬼灯は空腹感にペンを置いた。
隣では黙々と残業に勤しむ第二補佐官がいて、鬼灯の視線に気がついたのか名前は久しぶりに机から顔を上げた。

「どうしました?あ、もしかしてもう終わったんですか?私の方はもう少し…」
「いえ、小腹が空いてしまって。名前さんは?」
「え、私ですか?大丈夫ですけど…」

あんなに食べてたのにな、と鬼灯の大食っぷりを思い出しながら、名前は苦笑した。
しかしこんな微妙な時間まで残業をしていればお腹くらい空くかもしれない。

「何か買ってきましょうか?」
「いえ、我慢します」
「でも…あ、そうだ。私の部屋に携帯食ありますよ。持ってきますね」

思い出したように立ち上がる名前は、鬼灯の返事も聞かずに飛び出して行ってしまった。
わざわざ取りに行くほどお腹が空いているわけではない。悪いことをしたなと彼女の仕事をこっそりと自分の机に置く。
残業ももう少しで終わりなのだ。空腹を我慢するか、仕事を終わらせるか。空腹に負けたのがなんとも悔しい。
そんなことを考えつつ名前が戻ってくるのを待つが、彼女はなかなか戻ってこなかった。
おかしいな、と椅子から腰を上げる鬼灯は、名前の様子を見に彼女の部屋へと向かった。

その頃、名前は自室で携帯食を探していた。

「あれ…ここにあったはずなんだけどなぁ…」

心当たりのある棚を探してみても見当たらない。必要ないときにはよく見るのに、必要なときに限ってどこにあったか忘れてしまう。
もしかして食べてしまったんじゃ、と思うと、鬼灯に持ってくると言った手前申し訳ない。
絶対あるはずだと部屋を見回して困っている名前の耳に、ドアをノックする音が聞こえた。すぐに出れば鬼灯だった。

「すみません、遅くて」
「布団の魔力に負けてしまったのかと」
「いえ、どうも見つからなくて。確かにあったはずなんですけど…」

困ったように心当たりのある場所を探す。鬼灯も部屋に入りながら見回した。
けれど鬼灯にはどこに何があるかわからないわけで、初めて入った彼女の部屋を目に焼き付けることしかできない。
ふと香る甘い香りに安心感を覚える。どこかで…と考えれば、いつも隣にいる彼女のもので、部屋が彼女のものなのだから同じ香りがしていてもおかしくはない。
鬼灯は部屋にあるものを流し見ながら、その中のひとつを視界に入れた。名前はまだ携帯食を探しているようだ。

「名前さん、もういいですよ」
「ごめんなさい…仕事に戻りましょうか」
「いえ、本格的にお腹が空いてきたので夜食を食べようと思います」
「夜食?どこかに食べに……」

行くんですか、という言葉は鬼灯の行動に飲み込まれる。鬼灯は名前を抱き寄せると、彼女の耳に唇を当てた。
震え上がる名前に鬼灯は言う。

「あなたをいただきます」

と。囁かれた言葉に名前の顔は真っ赤に染まり、いとも簡単に寝台へと運ばれる。
ぎしりと音を立て逃げられないように追い込めば、名前は自分を見下ろす鬼灯にぱくぱくと口を開けることしかできない。

「なんですかそれ。金魚草の真似ですか?」
「ち、違います。私を食べてもお腹いっぱいになりませんよ!」
「あなたのお腹はいっぱいになるかもしれませんね」
「…な……」

言葉に詰まり、不敵に微笑んでいる鬼灯に名前は恐る恐る尋ねる。
どういうことですか、なんて聞かなくてもわかっていることだろうに、その不安そうな顔が可愛くて鬼灯は思わず笑った。

「あの、それは…」
「冗談ですよ。でも名前さんはいただきます」
「まっ……」

制止の声も届かず名前の口が塞がれた。互いの舌が絡み合い、体を熱くさせる。
深い深い口付けを終えると、名前はそれだけで息が上がってしまっている。
その甘い吐息がさらに火をつけることを知ってか知らずか、名前は息を吐き出しながら鬼灯の名前を呼んだ。

「慌てないでください。残さず食べますから」

鬼灯の長い指が着物の中へと滑り込む。名前はその身を託すように目を閉じた。
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