隠し子疑惑


視察を終えて閻魔殿へ向かう途中、寄り道した茶屋でくつろいでいるととんでもないものを発見してしまった。
子供を連れて歩く…紛れもなく私の上司であり残念な恋人である鬼灯さん。二人の子供を抱えながら歩く姿は親子のようだ。
……まさか鬼灯さんの隠し子!?
思わずスプーンを落してしまうくらい動揺してしまった。

いやいや…鬼灯さんに子供がいるなんて聞いたことないし…。でも何千年も生きてたらいろんなことがあるし、前の奥さんとの子供かも…。鬼灯さんって結婚してたことあるのかな。それとももう既にいるとか…。
憶測はどんどん肥大していって悪い方へと飲み込まれていく。
子供がいるなんて大事なこと、どうして言ってくれなかったんだろう。
いても立ってもいられなくなって茶屋を飛び出す。三人が歩いていった方へこそこそと向かえば、真相を明らかにしよう。

…と思って飛び出したのに声はかけられずにいる。だってなんて声をかければいい?
「子供がいたんですね」。それとも冗談交じりに「隠し子ですか?」。
聞き出す勇気もなく物影に隠れているところである。

「お人形欲しい」
「あれ買って」

鬼灯さんにすごく雰囲気が似た子供たちは人形屋さんの前で立ち止まる。
あのお松人形怖いな…。というかあの子供たちも怖い…。完全に無だよ。鬼灯さんそっくりだよ。これはやっぱり鬼灯さんの隠し子なのかな…。
思ったよりも自分が落ち込み始めていることに驚きながら隠れていた建物に寄りかかった。

「結婚とか言っておきながら、鬼灯さんには子供がいるんだ…」

なんといえばいいのだろうか。この感情は言葉では表すことができない。
目を逸らすようにしゃがみ込み、小さくため息を吐く。
「どうしたの?」という声に顔を上げれば、リアルお松人形が話しかけてきていた。

「わっ!?なに、なに!?」

驚きに声を上げれば、目の前にいたのはお松人形ではなく子供だった。さっき鬼灯さんと一緒にいた無表情の子供たち。
そんな顔で見つめられたら怖いんですけど。というか、なぜ二人はここにいるんでしょう。

「ど、どうしたの?私に何か用?」

鬼灯さんに見つかったのだと思うはずもなく、混乱する頭でとりあえず尋ねる。
二人は抑揚のない声で私の名前を呼んだ。

「名前さん、だよね」
「そうだけど…」
「私たちのお母さん」
「……はい?」

一体何を言っているんでしょう、この子達は。あれ、そういえば二人は鬼灯さんと一緒にいたな。鬼灯さんはどこに行ったんだろう。
ようやく鬼灯さんの存在を思い出せば、子供たちと同じ目線までしゃがんでいる姿があった。
怖っ…なにこの無表情。並ぶと怖いんですけど…それより鬼灯さん、これは一体どういうことなんですかね。
わけがわからず三人の目を見つめていれば吸い込まれそうだ。

「二人とも、今日からこの人があなたたちのお母さん……」
「ちょっと待った!」

落ち着け落ち着け。とりあえず鬼灯さんから状況を聞きだそう。
子供たちから鬼灯さんを引き離してその無表情に問いかける。そうすれば鬼灯さんは二人の説明をしてくれた。

「座敷童子ですよ」
「座敷童子?鬼灯さんの隠し子じゃなくて?」
「隠し子なんていませんよ。作るとしたら名前とです」
「そ、そういうことは言わなくていいです!」

さらっと問題発言したよ。というより、あの子達は座敷童子なのか…よかった…。
いや、隠し子じゃなくて安心したとかじゃなくて、鬼灯さんにそういう人がいなかったんだとかじゃなくて。
……なんだかほっとした。

「はぁ…びっくりした…」
「では改めて、この人がお母さ」
「違いますよ!」

何言ってるんだと抗議したのと、座敷童子が私の手を握ったのはほぼ同時だった。
小さな力が私の手を握る。見上げる表情は無だけど、どこかしら楽しそうに見え……ないな。子供ってもっと愛嬌があるものじゃないのかな。
いや、これはこれで可愛いけどさ…鬼灯さんは一体どこから連れてきたんだ。
聞けば住めるお家がないとか、家族が欲しいとか…。妖怪だけどこんな小さな子供がそう言っていると同情してしまうというか。
それでも私がお母さんというのは納得できない。

「あのね、私はお母さんじゃなくて」
「お母さん行こう」
「お母さん帰ったら遊ぼう」

思ったより強い力に連れられながら大通りを歩き始める。この子達も本気で言っているのかよくわからない。
確かにわかるのは鬼灯さんの息がかかっているということだ。もしかしたら鬼灯さんが変なこと吹き込んだのかもしれない。
四人で手なんか繋いじゃって、これは傍から見ると完全に家族……。
店のガラスに映った姿を見て、思わず壁に頭を打ち付けた。

「どうしたの?」
「お父さん、お母さんが変」
「元々変ですが…どうしたんでしょうね」

少しでも「結婚したらこんな感じなのかな」と考えた自分が恥ずかしい。
そして二子ちゃん、鬼灯さんをお父さんと呼ぶのはやめてほしい。
私がお母さんで鬼灯さんがお父さんって、もうこれ完全にダメなやつじゃないですか!鬼灯さんは一体何を企んでいるんだ。

「名前、二人が驚いてますよ」
「だって、鬼灯さんが変なこと吹き込むから」
「少しでも結婚後のイメージを持ってもらおうと思って。予行練習ですよ」
「心臓に悪いんでやめてください!」

結局座敷童子たちの希望で閻魔殿まで手を繋いで歩くことになった。
全部鬼灯さんの仕込みだったら嫌だな…。

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