休日の過ごし方


とある休日、鬼灯と名前はどこに出掛けるでもなく部屋でくつろいでいた。
地獄にしては今日の気温は少し涼しくて、名前は温まるように鬼灯に身を寄せる。
幸せな心地に目を閉じる名前に、鬼灯は鬼灯で構わず本を読んでいる。貴重な休日でもこうしてゆるりと過ごすのが二人のスタイルだ。

本を読み終わった鬼灯がそれを閉じたところで名前は目を開けた。
どちらともなく目を合わせ数秒見つめ合えば、それだけで意志疎通ができてしまう。鬼灯は名前を抱きしめると頬に小さくキスをした。

「鬼灯さん。ひとつ提案いいですか?」
「なんですか?」

顔を上げて名前はくい、と鬼灯の袖を引っ張った。首を傾げる鬼灯に名前は恥ずかしそうに笑う。

「そろそろ呼び捨てで呼び合ってもいいかな…って」

控えめに述べられた言葉に鬼灯は「なるほど」と頷いた。
こうして付き合いはじめてからもう随分経つ。名前が鬼灯を様付けしなくなったのは結構前だが、鬼灯は名前のことをずっとさん付けだ。そろそろお互いに呼び捨てしてもいい頃だった。

「私のことは好きに呼んでくれて構わないですよ」
「鬼灯さんに呼び捨てされたいんです…」

好きな人に呼び捨てされたい。それでなくても鬼灯は大勢をさん付けで呼び、呼び捨てしているところは見たことがない。
呼び捨ては恋人の特権かと思うと、呼んでほしいと思うのも不思議ではないだろう。

「いいですよ。…名前」

しっかりと名前の目を見つめたままいつもの低い声で呼ぶ。名前はそれを聞きながら徐々に顔を染めていった。
てっきり喜ぶと思っていた鬼灯はぴしりと無反応の名前に疑問を抱きながら反応を待つ。
しかしいつまで経っても名前は俯いてしまうだけで何も言わなかった。

「名前?どうしたんですか?」

呼び方がまずかったようには思えないが、名前は耳まで染め上げてしまっている。どうしたのかと聞いて余計色が濃くなった。

「名前」
「や、やっぱりいいです…恥ずかしい…!」

その理由に気がついた鬼灯がもう一度名前を呼べば、名前は顔を上げてそれを止めた。

「おかしな人ですね。呼んでほしいんですか、どっちですか」
「思ったより堪えるのでいいです…」

呼び捨てで呼ばれるのがこんなにも心にくるとは。
名前はドキドキする胸に手を当てながら、小突くように頭を鬼灯の胸板に押しつけた。
鬼灯は微笑ましそうに名前の頭を撫でる。

「まぁ、名前を呼ぶたびにそう赤くなられては困りますからね」
「ほ、鬼灯にはわからないですよ!」

からかうような口調に名前は口を尖らせた。ついでに自分もと鬼灯を呼び捨てにすれば、それだけでも少し勇気がいる。
名前は「言えた…!」と心の中で嬉しくなれば、鬼灯の反応がないことに気がつく。頭を撫でていた手も止まり、さっきの名前のように無反応だった。
おかしいな…と胸板から顔を離せば鬼灯の表情を覗き込む。

「…鬼灯?」

どうしたんですか、と言う前に名前は気がついてしまった。鬼灯が照れたように表情を隠していることに。
名前にそれがバレたと知ると、鬼灯は誤魔化すように名前を腕の中に閉じ込めた。

「やっぱり私も呼び捨てはいいです」
「もしかして鬼灯も…」
「呼ぶなと言ってるでしょう?名前」

ふいに呼ばれて、しかも耳元で囁かれれば恥ずかしさと嬉しさが倍増だ。名前は抗議するように鬼灯から抜け出した。

「呼ばないでって言ったじゃないですか、鬼灯!」
「名前が呼ぶからです」
「だって鬼灯が!」
「名前でしょう?」

鬼灯、名前……とお互い何度か呼び合えば、鼓動は速まり体は熱くなっていく。
やがてどちらともなく口を閉じれば、しばしの沈黙が流れた。
言い合いながらも握られていた手からはお互いの熱が混ざりあっていた。

「真っ赤ですね」

鬼灯は名前の顔を見て呟いた。そうすれば名前も鬼灯を見て指摘する。

「鬼灯さんも赤いですよ」

名前はその珍しさに得した気分だが、鬼灯にとっては隠したいものだ。
自然とムッとした表情になれば、名前はその表情でさえ大好きで。

「呼び捨てはまだ無理そうですね」

そう言ってにやにやしてしまうのを隠すように抱きついた。鬼灯もそれに同意しながら名前を優しく抱きしめる。
ただこうしているだけで幸せな時間は過ぎていくのだ。
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