プレゼント交換


12月になると地獄もクリスマスムードが漂ってくる。街に彩られるツリーや装飾の数々。
もともとクリスマスはキリストの〜と話しても、日本ではただのイベントに過ぎない。
この時期は獄卒たちも浮かれ始め、彼女彼氏を作ろうと奮闘する姿も見える。
仕事をまとめる方としてはあまり浮かれられると困るのだが、こうも定着しているイベントとなると仕方ないのかもしれない。
鬼灯様は出来の悪い書類を見ながらため息を吐いていた。

「クリスマスなんていらないですよ。そもそもクリスマスはキリストの誕生を祝うものです。いつから男女が交わる日になったんですか」
「鬼灯様…そんな言い方しなくても」

間違ってはいないような気もするけど、その言い方は上品ではないというか、語弊があるというか。
苦笑していれば鬼灯様は椅子の背もたれに寄りかかって書類を机に投げた。
いつもよりイライラしてる。余計な言葉をかけて怒らせても困るからと、特に気にしないで仕事をするのが私のスタイルだ。
しかしふとおかしなことを言い出す。

「クリスマスってプレゼントがもらえるんですよね」
「子供がですけど」
「大人でもさして問題はありません。私にプレゼントください」

鬼灯様は何を言っているんだろう…。今さっきクリスマスはいらないと言っておきながら、ちゃっかりイベントに乗っかってるじゃないですか。
それに私のことを見つめて「プレゼントください」って、私に言ってるのそれ。まさかのプレゼントのおねだりですか鬼灯様。
え…と困っていればさらに話し出す。

「誕生日もプレゼントがもらえる日ですよね」
「え、まさかクリスマスなんですか、誕生日」
「いえ、生憎ですが誕生日はわからないです。ですから私はその機会を逃しているんです」

つまり、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント、年に二回のところを一回にするからプレゼントを寄越せと。鬼灯様はそう言いたいのでしょうか。
なるほど…と頷いていれば、また鬼灯様は私をじっと見つめる。

「抱き枕が欲しいです」
「よりにもよってそんなかわいいプレゼント…」

そこはもっと鬼灯様らしく拷問道具とか。いや、鬼灯様らしくってなんだろう。
人からもらうプレゼントだからこそ自分が買いづらいものを所望してるのかもしれない。
というか、私がプレゼントをあげることは確定なんでしょうか。

「抱き心地のいい抱き枕です。どうですか?」
「いいですけど…抱き心地のいいと言われても、人それぞれなので…」
「それは大丈夫です。あなたが部屋に来てくれれば大丈夫なので」

それは既に欲しい抱き枕があるってことなのかな。一緒に買いに行こうってことなのかな。全然わからないよ鬼灯様。
そして私もプレゼント欲しい。言ってみれば「いいですよ」と返事が来て、でも特に欲しいものもないことに気がつく。

「欲しいものがなければ私が考えておきます」
「本当ですか!」

これはクリスマスのプレゼント交換ってやつですね!
なんだかわくわくしてきた。変なことを言い出して…と思ったけど意外と楽しいかもしれない。
クリスマスが楽しみだ。


***


そしてクリスマスがやってきた。正確にはイヴなのだが、私は鬼灯様の部屋に来ていた。
用事がない限りここには来ないし、部屋の中に入ったのは初めてかもしれない。
促されるまま部屋に入れば鬼灯様はドアを閉めた。きっちり戸締りなんかして、抱き枕の話を誰かに聞かれるのが嫌なのだろうか。
こんな夜に買いに行くのかな…なんて疑問に思っていれば、鬼灯様は私をベッドに案内した。

「どうぞ」
「どうぞって何ですか。抱き枕をここで使いますっていう説明ですか?いりませんけど…」
「そうですね。説明は必要ありませんでした。では寝ましょう」

ぱちりと電気が消され部屋が暗くなる。鬼灯様は私の手を引いて布団の中に潜り込んだ。
あれ、これはどういうこと?行動の意味がよくわからなくて、気がつけば鬼灯様と同じ布団で寝ている。
そして鬼灯様は私を抱きしめた。

「あの、鬼灯様?」
「やはり抱き心地がいいですね。ぐっすり眠れそうです」
「ま、まさか抱き枕って…」

いや、そんなはず。しかしたった今鬼灯様は私を抱きしめながら寝ている。
まさかだけど抱き枕って私のこと!?気がついたときには遅くて、鬼灯様はどこか幸せそうにしていた。
ようやく状況が飲み込めて、信じられないと顔が熱くなってくる。
鬼灯様に抱きしめられている…。しかもクリスマスイヴに。よく考えてみれば大変なことが起こっている。

「ほ、鬼灯様」
「どうしたんですか?強く抱きしめすぎました?」
「いえ、そういうことじゃなくて」
「ああ、私からのプレゼントですね」

違う。そんなことじゃなくて、抱きしめられていること自体がですね。
そう言いたいのに鬼灯様は勝手に理解して話を進める。
鬼灯様からプレゼントを貰うのは少し楽しみにしていたけどそれどころじゃない。
抱きしめる力が少し緩み、鬼灯様は私の表情を見るように顔を合わせた。
こんなに近いのに鬼灯様は表情も変えずに見つめてくる。私の顔は真っ赤だろう。

「喜んでくれるといいのですが」
「な、なにを…」

何をくれるというんですか、そんなに顔を近づけて。このままじゃ…。
どこにも逃げられなくて、近づく距離に目を瞑った。
そうすれば鬼灯様の唇が私の唇に触れた。たった数秒なのにすごく長く感じる。
離れていくのに合わせて目を開ければ、再び鬼灯様と目が合った。

「満足してもらえましたか?足りないならもっとあげますけど」
「け、結構です…」
「そうですか。では私は抱き枕のあなたを存分に堪能させてもらいます」

さっきと同じように抱きしめられて、鬼灯様は私を包み込む。
足なんか絡ませちゃって、体温が鬼灯様と溶け合っていく。
ドキドキと胸の鼓動が聞こえてしまいそうで恥ずかしい。どうして鬼灯様は私を抱き枕になんて。
それに私にくれたプレゼントだって、どうしてキスなんか…。
抱きしめられるのは温かくて心地いい。聞きたいけどその温かさにどんどん思考がとろけそうになる。
どうしよう、こんなことされたら勘違いしてしまう。

「鬼灯様…」

気がつけば名前を呼んでいて、鬼灯様は閉じていた目を開いた。
私の困りきった顔を見てどう思っているだろう。鬼灯様は小さく笑うと私の頭をそっと撫でた。

「抱き枕が欲しいなんてまどろっこしかったですね。要はあなたが欲しいということです。こうしてずっと抱きしめていたい」

おでこがくっつくくらい距離が縮んで私の顔は紅潮する。
鬼灯様の黒い瞳が私を捕らえて離さない。あなたが欲しいだなんて、こんな日にそんなこと言われたら嬉しくて…。
なんて答えていいかもわからず言葉を探していれば、鬼灯様の長い指が私の頬を撫でた。

「本音を言えばもっと違うことをしたいわけですが」

指が唇に触れ、その手つきがなんだか厭らしくてまた恥ずかしくなった。
クリスマスなんて、と言ってた鬼灯様も考えてることは同じじゃないですか。
そう言いたいのも山々だけど、既に視覚も触覚も奪われて体が機能していない。
耳元で名前を囁かれれば聴覚まで奪われて、もうこのまますべてを鬼灯様に捧げてしまいそうになる。
気がつけばとろとろに溶けきった頭で鬼灯様を見つめていた。

「鬼灯様、私でよければ全部あげます。だから私も…鬼灯様が欲しいです」

鬼灯様の瞳が一瞬きらりと光った。そしていつの間にか私の上にいる。
鬼灯様は私に優しく口づけすると妖しく微笑んだ。

「では私のすべてをあげましょう。覚悟してくださいね」
「お、お手柔らかに…」

いつもと違う雰囲気の鬼灯様に酔いそうになる。
鬼灯様に覚悟しろと言われると怖いけど、優しく触れる手つきに少しだけ安心できる。
目が合って恥ずかしくて、誤魔化すように笑えば鬼灯様も口元を緩めた気がした。
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