そもそもの始まり
獄卒になってもう数百、いや数千年。今更転職なんて考えてないし、このまま獄卒でいれば安定した収入が得られる。
それでもなんだか変わらない毎日に飽きてきているような気もする。
上司は適当だし、部下の尻拭いは私の仕事だし、亡者を拷問するのだって作業でしかない。
それでいてこの給料なんだから、もう少し割りのいい仕事はないものかと考えてしまうこともある。
そんなときに通りかかったのは閻魔庁の掲示板前で、ただの掲示板にいつも人は集まらないはずなのに、妙に騒がしかった。
やけに女獄卒が多いなと思いながら私もそこに分け入っていく。
みんなが釘付けになっている張り紙を見れば、そこには
「閻魔大王第一補佐官補佐募集」
と書かれていた。
なるほど…騒がしいわけだ。女獄卒が騒ぐのも頷ける。
第一補佐官といえばあの鬼灯様。鬼灯様の下で働けるなんて獄卒にとっては夢のようなこと。
それにあのルックスなら女獄卒は放って置かないだろう。
閻魔庁に異動か…なんて考えてみると悪くはない。そして私もその張り紙に目を奪われた。
「これは給料アップのチャンス…!!」
急いで応募しなくては!
早速履歴書作成だと、騒がしいその場所を抜け出した。
机に積み上がっている書類をテキパキと終わらせば履歴書を作成した。久々のそれに気分はウキウキだ。
もし閻魔庁に入庁できたら大出世。補佐官の補佐っていうのはよくわからないけどそれに変わりはない。
「できた!…いや、これはやめておこう」
勢いで書き上げた履歴書は志望理由が酷すぎる。今いる部署の愚痴や給料アップについて。
あまりにも正直すぎてこんなの出したら面接になんて進めない。適当でまともな理由を考えないと…。
新しく書き直した履歴書をまとめながら封筒を探す。
あったあった。あとはこれに入れて出すだけだ。
「名前さん、これなんだけど」
「はーい。うわわ」
上司に呼ばれて席を立てば落ちる机の上の書類。こんなことになるなら先に提出しておけばよかった。
今書いた履歴書まで混ざって拾うのが面倒だ。
「熱心に何を書いているのかと思えば、例の募集?」
「一攫千金のチャンスですよ」
「それを言うなら千載一遇だろ。そんな宝くじみたいに…」
実際そんな賭けのような気がする。拾い上げてくれた履歴書を封筒に入れながら、「当たりますように」と祈れば、上司は「頑張れ」と手をひらひらと振りながら行ってしまった。
さらりと仕事を押し付けて、書類は拾ってくれないんだね。後姿にべっ、と舌を出せば封を閉じた。
その中身が最初に書いたものだと知るのは、少し先のことだった。
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