気がついて!


突然だけど最近私は悩んでいる。
それは恋の悩みというやつで、好きな人が私のアピールに気づいてくれないのだ。
もう周りは気づいているのに、本人だけ気づいていない。
そういうことに鈍感なのか興味がないのかわからないが、その人は私がどんなにアピールをしても気にする様子がなかった。
私は結構積極的な気がするんだけども。モヤモヤと心が落ち着かない。

この間だって視察中にボディタッチを多くしたのにダメだった。
何も言ってこないし顔色も変えない。もしかしたら女性に興味がないのかもと思ってしまう。

「鬼灯様って男好きなんですか?」
「どんな考え方をすればそうなるのか聞きたいですね」

そんなことを考えていればつい口に出してしまって、それを聞いた鬼灯様は「馬鹿ですか」というような目で睨んできた。
どうやら男好きではないらしい。よかった。いや、そんなことはわかっているんだけど。

どうすれば気がついてくれるだろう。
私が気持ちを伝えれば済む話なのだが、なんというかこう、男性の方から告白されたいという願望があったりなかったり…。私にそこまでの勇気がないとも言う。
ここは強引に恋愛の話をするしかないのかもしれない。

「あの、鬼灯様って好きな人いるんですか?」
「ええ」
「ですよね……え!?」

思わぬ回答に素っ頓狂な声を出してしまった。
「どうでもいいでしょう」辺りの返答かと思えば、肯定だし即答だし。鬼灯様って好きな人いたんだ…と追いついてくる思考に心は沈むし。
「そうなんですか」と適当に繕えば、鬼灯様は「何かおかしなことを言いましたか」とでも言いたそうな顔をしていた。

「知らなかったです。鬼灯様って恋愛に興味ないのかと思ってました」
「私にも好きな人くらいいます」

あぁ、なんでこんなこと聞いちゃったんだろう。好きな人がいるなら私からのアピールに気づかないのも頷ける。私には気がないからアピールに乗らないのだ。
恋愛話をしてまたアピールしようと思ってたのに、とんでもないことを聞いてしまった気がする。気づいていないのは私じゃないか。
もっと早くに聞いていればよかったな、と思わずため息が漏れる。

「辛気臭いため息を吐かないでください」
「すみません…」

苦笑いをすればくるりと身を翻す。なんだか今までの努力が無駄のようで、ここにいたら感情が溢れ出しそうだ。
「戻ります」なんて言いながらドアへ向かう。ドアノブに手をかけたところで鬼灯様は私を引き留めた。

「誰だとは聞かないんですね」

確かにいつもの私なら確実に聞き出している。噂話や恋バナは大好物だ。
でも今はそんな気分ではなかった。私は鬼灯様を好きなのに、鬼灯様が他の人のことが好きだなんて知るのは嫌だ。
それも鬼灯様は聞いて欲しそうに言うのだ。協力してくれなんて言われたら、今の私には耐えられそうにない。

「また今度聞きます」
「珍しいですね」
「そういう時もあるんです」

今度こそとドアノブに手を掛ける。だが鬼灯様はいつの間にか私のすぐ後ろに立っていた。
振り返れば鬼灯様は私の腕を掴む。どうしても私に聞いて欲しいようだ。本当は聞きたくないけど聞くしかない。

「…誰なんですか?鬼灯様の好きな人」

私の表情は見るからに不機嫌だったと思う。鬼灯様はその表情に一瞬気まずそうな顔をした。
鬼灯様だって私がその話を聞きたくないことはわかっているだろうに。
聞いたくせに答えない鬼灯様にもう一度声をかければ、鬼灯様は私をそっと抱きしめた。

「あの、鬼灯様?」
「すみません。少々意地悪しすぎたようですね」

いきなりのことにどうしていいかわからなくて、ただただ鬼灯様の腕の中に納まっているだけだった。
鬼灯様は耳元で謝ると優しく私の頭を撫でた。
どうして鬼灯様は謝っているんだろう。それに意地悪って。
その疑問の答えは見つからなくて、その前に鬼灯様が私から体を離し視線を合わせた。

「私が好きなのはあなたです」

え、という言葉さえ出てこなかった。それくらい驚いていた。
鬼灯様が私を好き…?と頭は大混乱。私のアピールは成功していたのだろうか。
鬼灯様がこうして好きと言ってくれたのだからそうだろう。

「私の気持ちは知ってたんですか?」
「あれだけアピールされれば誰でも気がつきますよ」

やっぱりアピールしすぎだよなぁ。と考えている場合ではない。鬼灯様は私の気持ちに気がついてくれていたんだ。
なんだかさっきまで落ち込んでいたのがおかしい。私の勘違いだらけ。
でもあれ?鬼灯様が謝った意味はなんだろう。意地悪しすぎた…意地悪?

「もしかしてずっと前から気づいてました?」
「そうですよ。あなたが奮闘してる姿を見るのが楽しくて」

鬼灯様ってもしかしなくてもSだと思う。気づいてないフリをして私が必死にアピールしてる姿を楽しんでたなんて。
「酷いです」と呟けば、「すみません」と頭を撫でられた。そうされると嬉しくて黙ってしまう。
なによりも私のアピールに気がついてくれたことが嬉しかった。

「あなたの気持ちを聞きたいのですが」
「言わなくても知ってるでしょう?」
「あなたの口から聞きたいです」

鬼灯様はそう言うと私の目を捉えた。逸らせないようなその視線はじっと私を見つめている。
本当に鬼灯様に振り回されっぱなしだ。悔しいけど想いが通じ合うと思うと許せそうだった。

「好きです、鬼灯様」

やっと伝わった想いに、心の霧は晴れていった。
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