進展はもう少し先になりそうです
話があると言われ幼馴染の第二補佐官に呼び出された。呼び出されたと言っても、いつもと同じ執務室なのだが。
改まって話がしたいのだろうか。視察から戻ってくれば、彼女は私を待っていたように顔を上げた。
「話とは何ですか?」
「その…あのね」
言いづらそうに視線をあちこちに彷徨わせ、ポリポリと頭を掻く。
その顔はほんのりと色づいていて、私も言いたいことは既にわかっている。
けれど急かすのも、わざわざ気づいてやるのも彼女のためにならない。だから私は黙ってそれを待つのだ。
「私ね、実は…」
ぱっと上げられる顔は何かを決めたような真剣な顔つき。ようやくか、と私はそれを聞き逃してしまわないように聞き耳を立てた。
彼女は一呼吸置いてから口を開いた。
「髪切ったんだ!どう?気づかなかったでしょ!」
恥ずかしさに耐えられなくなったのか、彼女はそう言って誤魔化すように笑った。
結局このパターンだ。いつも大事なことは言わずに誤魔化してしまう。
「前髪でしょう?目にかかっていたのがすっきりしましたね」
「な、なんだぁー、気づいてたんだ」
「話はこれですか?」
「そうだよ?いやー、気づいてないと思ったんだけどねー!」
あはは、と空元気の彼女は次第に困った表情になっていく。口をぎゅっと噤んで、今にも泣き出しそうな後悔した顔。
やがていたたまれなくなったのか、視察という理由で執務室を飛び出して行った。
私が今行って来たばかりだというのに、どこを見て回る気なんでしょう。
バタンと強めに閉められたドアの音を聞きながら、思わずため息が漏れてしまう。
「いつになったら気持ちを伝えてくれるのでしょうね」
こんなやり取りをもう数百年。そろそろ私から伝えるべきでしょうか。
しばらく戻ってこないであろう彼女の代わりに、少しでも仕事を片付けておくことにしましょう。