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「本当に図太いというか、厚かましいというか…前風紀委員長はなぜあんなやつを指名したんですかね」
「毒を以て毒を制すとか言うだろうが。ガンにはガンをぶつけてそれで互いにつぶれりゃ尚良しとでも思ったんじゃねえか」
「…なるほど」

柏葉にさらりと返しながら、城之内は内心煮えたぎるような憎悪を抱えていた。

俺様とは言われるが、それ以上に実力のあると自負する自分。もちろんのこと顔はずば抜けて整い、それに見合う能力と財力を兼ね備えている。
それが、あんな財力は中の下、顔に至っては平均以下。いつも無表情で何を考えているのかさえもよくわからない男に肩を並べられている。城之内の憎悪の原因はそれだけではなく、一番は学力と体力テストにおいて名村に勝てたことがないことにあった。
それに対して自分が対抗心剥き出しに挑発をしても、名村はいつも嫌みなく『お前は他の分野において俺より優れているじゃないか』と素直に賛辞を表してくることが城之内には腹立たしくて仕方がないのだ。

「まるで、俺が眼中にないみたいな言い方しやがって…」
「なんですか?」
「なんでもねえよ」

いつかやつをひれ伏してやる。
城之内は一人名村に対して心の内を燃やした。


一人廊下を歩きながら、名村は小さくため息をついた。手元にある書類のサインを見てふと口許を緩める。
殴り書きであるのにとても美しく力強い、本人を十二分に揶揄する文字だ。
書いた城之内本人を思い出してまたため息をつく。

城之内はすごい男だ。超のつくほどの大企業の御曹司として生まれながら、それをなんのプレッシャーにも感じずいつも威風堂々とし、それにふさわしい人物であろうとする。誰もがそのカリスマ性に惹かれ、自ら望んで城之内のために心骨注ぎ彼を敬う。

かくいう名村も、城之内に憧れを抱いていた一人だ。なんの因果かこうして対等な立場でぶつかり合うことになってしまったが、名村はまだ一般生徒であるときから城之内を尊敬していた。
だが、いざ相対してみれば城之内は自分をひどく嫌悪した。仲良くなろうなどと欠片もしてくれず、むしろ自分は風紀委員長にはふさわしくないと会うたびに冷たい刃を向けてくる。

城之内は、人を見た目で判断したりする人間ではないと思っていたので、実際自分がこの風貌で嫌われているのを知ったときは正直少しがっかりした。
だが名村はすぐに自分が信頼に足らないからだと思い直し、それならば城之内が会長として仕事をやり易いよう、学園の問題をできるだけ減らそうと考えた。名村は不良には以前から慕われていたので悪さをしている不良は大概名村を見てすぐにへらりと謝罪して態度を改める。だが、全てというわけではやはりなく、学園の特異な習慣思想を持つ親衛隊や不良からは今日のようにバカにされたりする。

そして、それを陳述した書類を見つけると生徒会の連中はここぞとばかりに名村に嫌みを言ってくるのだ。

なんとも思わないと言えば嘘になる。
名村は、その憧れから、城之内に対してほんのりと恋情を抱いているのだ。初めは、ただ憧れているだけだった。それがずっと見つめるうちその自分にはない素晴らしい才能に胸を打たれ…それが恋に変わるまで時間はかからなかった。
付き合いたい、恋人にしてほしいなどとおこがましいことは思ってはいない。だが、好きな人に、あんな態度をされるのは辛い。ただ…認めてくれたなら。

「…よし」

城之内に、いつか認めてもらうために。名村は頑張っているな、と一言でも言ってもらえたら。

がんばれ、と両頬を軽く叩いて背筋を伸ばして歩き出した。


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