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2

「ただいま〜」
「…おかえり」

玄関を開ければ、右手に大きなペンギンのぬいぐるみをつかんで仏頂面をして鉄二が立っていた。

「ごめんな、心配した?鉄二の好きなケーキがあったからさ、寄ってたんだ」
「…ベツに」

職場から家までは自転車で10分程だ。だけど、ケーキ屋に寄ってたら少し遅くなってしまった。ぷいっとそっぽを向いてすたすた歩いていってしまうけど、言った時間に帰らなかったから心配して玄関先にいたのは間違いないだろう。かわいいなあ。
ちなみに鉄二の持っているペンギンは、俺が初給料で買ったものだ。

鉄二の後を追ってリビングに行けば、ウマそうな香りが漂う。今日はハンバーグか。

「いい匂い!すげえうまそう〜」
「風呂」
「え?」
「風呂入ってこいよ。お前汗くせえ」
「…ごめん」

しょぼんとしてすごすご風呂に向かう。けど、知ってるんだ。すぐ帰るって言っちゃったから少しおかずが冷めてしまったんだろう。鉄二は優しいから、あったかい料理を俺に食べさせたくて、風呂に入ってる間に恐らくおかずやみそ汁を温め直そうと思っているんだろう。
素直にあっためておくからって言えないのはわかるけど、クサいって言われるのはショック…。
風呂上りに念入りにボディークリームでケアをしてリビングに戻れば、今度こそ美味そうに湯気の立ったほかほかのご飯が並んでいた。
鉄二を見れば、無表情を装ってるけどちらちらとちょっと心配そうな顔をして俺を伺ってる。バカだなあ、さっき言ったこと気にしてるんだ。
なんとも思ってないよって意味を込めて頭を撫でれば、軽く頭を振って手を離されたけどほっとした顔をしてた。

「いただきます」

二人そろってテーブルについて、手を合わせていただきます。
反抗期でも、鉄二は挨拶や礼を欠かさない。食べ方もきれいだし、箸の持ち方もきちんとしてる。なんていうか、所作がきれいなんだよな。

「なんだよ」
「いや、きれいだなって思って」

ほんと、食べ方キレイ。素直に褒めたら鉄二はものすごく顔を真っ赤にして何も返事を返さなかった。

「なあ、鉄二。お前こないだまた喧嘩したんだって?」
「…自分からしたわけじゃない」
「わかってるよ。けど、危ないだろ?心配してんだぞ」

また怪我をして帰ってきたんだと小暮さんから聞いたのはつい二日ほど前、俺が夜勤上がりのときだ。
兄貴に用事があって兄貴の会社に行って、そこでたまたま小暮さんに会ったんだ。
兄貴は大学を出てから、親父の跡を継ぐために自社に就職して今は子会社をひとつ任されてる。んで、小暮さんはと言うと兄貴の会社のSEのトップとして働いてるんだ。

「…鉄兄に会ったのかよ」
「え?うん。小暮さんも心配してたぞ」
「…」
「お前は小暮さんに似て見た目で勘違いされやすいからな。小暮さんと同じで腕っぷしも強いのは知ってるけど…」
「帰る」
「えっ?おい、鉄二!まだ話は終わってないぞ!ケーキだって…」
「知るか」
「鉄二!」

このまま帰しちゃまた夜遊びに行くかもしれない。立ち上がって出ていこうとするのを手をつかんで引き止める。振り払われないことにほっとしながら軽く手を引けば、もとの席に座りはしないものの俯きながら大人しく引かれた分だけ近付いてきた。

「ケーキだけ食べていけ。な?お前と一緒に食べたくて買ってきたんだ」
「…いの、」
「ん?」
「…鉄兄のこと、もう出さないなら…食べる…」
「わかった、言わない」

即答してもう一度手を引けば、今度は大人しくもとの席に座った。
その後は普通にたわいない話をして二人でケーキを食べた。
好きなケーキを口に入れたときの顔がかわいいったらもう!

黙々と夢中でケーキを食べる鉄二を見ながら、小暮さんに心配されるのがそんなに嫌なのは俺が一時期兄貴にライバル心持ってた時みたいなもんかななんてその時は呑気に考えてた。

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