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5

生徒会室に帰ってから、放課後ずっと遅くなるまで1度も生徒会室の外には出なかった。会長の顔を見るのも正直いらいらしたんだけど、俺の見てないところでルイくんに電話するんじゃないかと思うとすごくイヤだったから。

「なんだってんだ、何か言いたいことでもあるのか」

自分では見てないつもりだったんだけど、意識がずっとそっちに行ってたみたいで会長に変な顔をされちゃった。
眉間に皺寄せても男前だよね。それでどれだけのチワワちゃんをたぶらかしてきたんだろう。
…うちのボスチワワも、たぶらかされちゃったのかな。でもでも、まだ俺の親衛隊長やってくれてるし…。

「そういや、お前んとこの隊長解任らしいな。ありがとうよ、これでやっと俺んとこに心置きなく引き抜ける」
「えっ!?」

部屋に響き渡るくらいに高くすっとんきょうな声が出た。なにそれ、なにそれ。聞いてない。ってかそんなこと知らない!

「そ、そんなはずないよぉ!」
「じゃあ隊の中で決定したんじゃねえか?そりゃしょうがねえよな、あいつのせいでお前の評判が悪くなったってだいぶ責められてたらしいし」
「え…」

なんだ、知らなかったのかなんて少し呆れたような会長の声が遠くに聞こえて、ぐるぐると頭が回ってるような錯覚に陥る。
ルイくんが?
俺の評判が悪くなってるって?

「そんな、」
「そりゃそうなるよなあ。お前、最近前にもまして遊びが激しくなってるし?生徒会の仕事をちゃんとしてても、人間影のいいことより表の悪いとこばっか目につくもんだ。しかも、隊長はしょっちゅうお前を追いかけてっし、お前はお前でウザそうにしてっし。
お前の前の隊の規律が楽しかったやつらからはあいつの作った規律が気に食わねえからこれ幸いとばかりに叩くだろうよ。

そういや、お前、知ってるか?」


会長の話を聞いた俺は、何も言わずにただ生徒会室を飛び出した。途中で何度もかわいこちゃんに声をかけられたけど、それどころじゃない。
そして、そんな状態になってその子達の顔を見て初めて気付いた。

ルイくんが俺を見る目と、全然違う。

すごく、すごく気持ち悪い。
怖くて、怖くて、泣きそうになりながらルイくんを探して走る。

ふと視界のはしに、校舎裏に集まる軍団を見つけて嫌な予感と共に妙な確信を持ってばれないように近づいた。


影からそっと覗けば、それは俺の親衛隊の子たちで、その中にはルイくんに降ろされた前隊長もいる。そして、その団体にたった一人対立しているのはルイくんだった。

「だから言ったでしょ?君の考えは間違ってるって」
「…そうは思いません」
「何言ってるの?結果は目に見えてるじゃん、会計様は君のやり方が気に入らなくて手当たり次第じゃないか。君のやり方が間違っていなかったならそんなことしないはずだよね?」
「…それは…」
「だから言ったんだよ、会計様は気持ちいい事、楽しいことが大好きなんだからそれを叶えてあげるのが僕達親衛隊の役目でしょ?僕達は彼に抱かれたい、会計様は遊びたい、それなのに君はそれを君の勝手な間違った道徳観で禁止した。そのせいで会計様は仕事もせずに授業も出ずに遊ぶようになった。わかる?君は間違ったんだ」


愕然とした。
前隊長たちが何を言ってるのかわかんない。

「…間違ってなんていません」

そんなショックを受けて真っ暗な俺の耳に、ルイくんの凛とした声が届いた。俯いていた顔をあげれば、前隊長を始め、その場でルイくんを囲む皆から蔑んだ目で見られていると言うのに、ルイくんは真っ直ぐに前を見て強い目をして皆を見つめていた。

「あなた方は、そんなに自分の大好きな会計様が毎晩のように自分の隊の子に夜伽をするのを本当に正しいと思っているんですか?あなたたちの中には少なからず本当に会計様と恋人になれたらと願う子だっているでしょう?そんな人の気持ちを大事にしないような、目先の楽しさだけで不特定多数と関係を持つような人でいさせることが本当に彼を大事にしたいと思う人がやることですか?僕は、彼が大切なんです。大事にしたい、特別な人なんです。そんな彼に間違った人でいてほしくない、人と自分を大事にしてくれる人になってほしいんです!」

―――泣きそうになった。

その場にいた、他の隊員たちがざわざわとざわめきだしてそれぞれ顔を見合わせたりしている。
だけど、前隊長だけは全然眉ひとつ動かさずにそれどころかルイくんをさらにバカにしたような目で見つめ、鼻で笑った。
「えらそうに綺麗事いってるけどさ、ほんとに君のいうことが正しいなら、会計様はもう遊ばないはずだよね?だけど、そうじゃない。結果会計様を余計に堕落させた君は隊長失格。さ、隊員バッヂを外して、もう二度と会計様に近づかないで!」

ルイくんの言葉に揺れていた隊員たちが、前隊長の態度に次第にそちらに流されてルイくんを責める声が大きくなる。
それでも頑なに毅然としてそれを受けようとしないルイくんに焦れた前隊長が無理矢理バッヂを外そうと掴みかかった。

「外せっつってんだろ!」
「やめ…」
「やめろ!」

その手がルイくんの胸元を掴むと同時に今まで固まっていた足と口がようやく動いた。
今まで出したこともないくらいに大きな声で制止を呼び掛け俺が現れたことで驚いた前隊長が思わず掴んでいた手を離すと、俺は対峙する二人の間に立ちルイくんをその背に隠すように前隊長の前に立ち塞がる。

「か、会計様!ちょうどよかった、彼を除隊処分にしてください!」
「そ、そうですよ!そして前の規律を復活すれば、会計様だって欲が満たされて仕事に集中できるでしょう?」
「邪魔されていらいらすることもなくなるじゃないですか!」

口々にルイくんは間違っていると、ルイくんの悪口を吹き込もうとする人間を一人一人見れば、その顔がひどく醜く見えて悲しかった。

「…前隊長、それにみんな。…俺、今も、ちゃんと仕事してるよ。それに、授業だってちゃんと出てる」

あ、と口を開けたまま言い訳を探しているのか前隊長を始めとした隊員たちが気まずそうにそわそわとしている。

「誰とでも寝たりはしてたけど、やらなきゃいけないことはやってたよ。そう見えてなかった?見えてなかったとしたら、それはルイくんのせいなんかじゃないよ…。ルイ君は、隊長から降ろさない」

完全に困惑している皆をその場に残して、ルイ君の手を引いてその場から連れ出した。
親衛隊の子、特に前隊長が俺を必死に呼んでた気がするけど、振り返る気になんてなれなかった。


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