9
抱きしめられながら、善はまたふと湊に問いかけた。
『どうして今日は、ベッドで一緒に寝たのか』
と。
その問いかけに対し、湊はひどく泣きそうな顔をしてさらに強く善を抱きしめた。
「…お前が、本気で俺を拒絶しようとしたから…」
今までどれだけ虐めようが、湊を好きな善はどうしてもそれを受け入れてしまっていた。湊にはそれが伝わっていたらしく、そんな善がまさか本気で自分から離れようとするだなんて思いもしなかったらしい。
いつもの傍若無人な態度とはうらはらに、まるで子供のようにしがみつく湊に善はぎゅう、と胸が甘く痛くうずいた。
「お前は俺のもんだ。絶対に離さねえ。逃げようとしてみろ、手足を切り落としてこのおもちゃ箱の中に閉じ込めてやるからな」
狂気のような言葉。だがその言葉を発する湊の顔は今にも泣きそうで、善には『捨てないで』と必死にすがる子供のように見えた。
善はそんな湊の頭を、自分の厚い胸板に閉じ込める様にして抱きかかえた。
「…俺は、あなた専用のおもちゃですから。専用に作られた玩具は、他の人では使えません。だから、ずっと、俺を傍に置いてください…」
自分を抱え込む善に、湊はしっかりと腕を回して離すまいと抱きしめ返す。
「…当たり前だ。俺が、俺だけのために作り替えたんだ。他の奴になんか使わせねえよ。お前は俺専用だからな」
「秋吉様、朝ごはんが出来ました。…っ、ひ!」
翌朝、湊に朝食の準備ができたと声を掛ける。部屋をノックしてドアを開けると同時に善の胎内が激しく振動し、善はその場に崩れ落ちた。
「あ、ん…っ!、や、…は、ぁ…!」
「『秋吉様』じゃねえだろう。なんて教えた?」
目の前で制服に着替えた湊が、ひどく冷たい目で自分を見下ろしながら問いかける。
「あ、…みな、っと、…っ、みなと、く…!」
胎内を犯す振動にがくがくと震えながら湊の名を呼ぶ。それに満足げに笑みを浮かべた湊は手の中にあるリモコンのスイッチをオフにした。
今朝、湊を起こしに行ったときに善はいつものように『秋吉様』と声を掛けた。するとそれに怪訝な顔をした湊が、善の下半身を剥きいきなり後孔にローターを埋め込んだのだ。
「もうただの雇い主と家政夫の関係じゃねえんだ。名前で呼べ。呼ばないとペナルティを与えてやるからな」
つまり、名前呼びを忘れると埋めたローターでのお仕置きがあるぞ、というのだ。善は泣きそうになりながら必死にこくこくと頷いた。朝ごはんを作りながら、胎内の違和感に耐える。朝食が出来上がり、湊を呼びに来たときには名前呼びの約束をすっかり忘れていて先ほどのような目にあったのだ。
はあ、と熱い息を吐く善の頬を、湊がするりと撫でる。
「いい子だ、善。…だが、『くん』はいらないな。呼び捨てでいい、そう言っただろ?」
「あっ、まっ…!やあ、あああ!」
またローターを強くされ、善が体をびくりと跳ねさせる。そして仰け反った拍子に、傍にある棚に足をぶつけて棚の上の箱が落ちてきた。
「あ、やべ」
ことん、と箱の中から飛び出してきた箱に焦った湊が思わずスイッチを切る。突如止まった刺激に、一瞬意識がはっきりとした善は中から飛び出した箱をじっと見つめた。
…紅茶…?だけど…、箱に何か、説明書きが…って、
「び、やく、入り…、…っ媚薬入り、紅茶…!?」
目を丸くする善の目の前から、悪びれる事も無く『見つかっちゃった』などと言い紅茶の箱を拾い上げる湊を唖然と見上げる。
今の箱には、確かに『媚薬入り紅茶』と書いてあった。横にうたい文句で、
『紅茶好きなあの子にばれずにこのお茶を飲ませちゃおう!男の匂いに興奮してエッチなあの子になっちゃうよ!』
などとも書いてあった。
善は、自分の記憶をぐるぐると手繰り寄せる。…初めて、湊に自慰を見られたあの時。確か、あの時の紅茶は、いつもより色が少し濃いような気がして…
「み、みなとくんっ!そ、それ…っ」
「あ〜あ、ばれちゃった。」
てへ、とごまかす湊に善は真っ赤になってパクパクと口を開閉させた。
「しょうがねえだろ?どうしても手に入れたかったんだから。善がエロい体してるのが悪い。いじめてくれと言わんばかりのムチムチなケツしてんだから、いじめてやろうって思ったんだよ」
なんてめちゃくちゃな!と抗議しようとするも、善は真っ赤になって俯くことしかできなかった。そう言う湊の顔が、とても甘く笑みを浮かべていたから。
…ああ、もう。この人は、ほんとにずるい。
媚薬入りの紅茶で、自分を貶めて、ひどく凌辱して、玩具にして、傷つけて。
…そうしておきながら、遠回しに甘やかして、まんまと自分を虜にしてしまったんだから。
「善?」
甘く自分の名を呼ぶその声に、善の体が熱く疼く。
ああ、しかたない。自分はそうしてこの人専用のおもちゃにされてしまったんだもの。
善は真っ赤になって震えながら、ゆっくりと湊に近づき足元にすがる。
「…メンテナンス、してください…」
俺はあなたのおもちゃだから。今、壊れそうに熱いから。
小さな声でそう言う善を、湊は満面の笑みで抱き上げてベッドに沈めた。
end
→あとがき
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