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「い、や…」
「うるせえ」
善の小さな拒絶の声は、湊の一言に却下された。ぎゅっと目を閉じ、諦めたかのように手足から力を抜く。
…ああ、やっぱり、だめだった。自分は、どうあっても玩具のままなのだ。
「愛されてないのが嫌なら、愛があればいいってことだろうが。今さら嫌がるんじゃねえ」
湊の言葉に、善は閉じていた目をぱちりと開けた。
…今、なん、て。
恐る恐る湊に顔を向けると、ちゅ、と軽く口づけられる。
「愛なら初めからある。いくらでもやるから俺を拒むな」
「…う、そ…っ、」
「嘘じゃねえ」
まっすぐに自分を見つめ、真剣な顔でさらりと言う湊に善はますます混乱した。信じられない。だって、湊は、今まで散々自分をいたぶってきたのに。罵って、辱めて、嫌がる自分を凌辱し続けてきたのに。
それを、愛があるだなんて誰が信じる?
「だ、…て…、湊、くんは、いつも女の子と…」
「ああ、お前に嫉妬させたかったからな。気付いてたか?俺が女といちゃつくたびに自分がどんな顔してたのか。お前の泣きそうな顔はめちゃくちゃそそるんだぜ」
き、づいて…
「そ、れに、いつも、…っ、お、俺の、こと…っ、い、淫乱、って…ばかに…」
「ばかにしてたんじゃねえ。褒めてたんだよ。だってそうだろうが?俺に抱かれて虐められて泣きながら喘ぐお前は最高に可愛い淫乱じゃねえか。」
それって、褒め言葉なのか?
「…、き、気持ち悪いって、言った…!」
「好きな子ほどいじめたくなるって言葉知らねえのか。お前は罵ると最高にエロい顔すんだよ。」
もう、何が何だかわからない。何を言っても、湊のいいように言いくるめられてしまう。しかもそれが全て自分には愛の言葉を囁いているように聞こえるのだ。
湊との言い合いで、善はいつの間にかぼろぼろと涙をこぼしていた。それを、湊が指で掬い上げながら何度も何度も頬に口づける。
「他にはないか?言ってみろ」
ん?と覗きこまれて、善は視線をさまよわせる。湊の声はえらそうながらもひどく優しくて、自分が何を言ってもいいのだと勘違いをしてしまう。
…ああ、でも。許される、ならば。
「…俺は、おもちゃ、ですか…?」
「ああ、そうだ。俺だけの、俺専用の大切な宝物のおもちゃだ。」
今まで、幾度となく言われ傷ついてきたその言葉。だが、今湊の口から言われたその言葉は、善には愛の告白に聞こえた。
「…っ、く…、ひっ、ぅ…!」
「大事な大事な宝物だからな。壊れようが何しようが離さねえよ」
そう言って抱きしめられ、善はその背中にそっと手を回した。
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