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俺は大馬鹿者だ。
自分のことしか考えない最低な自分勝手な男だ。
榛原の気持ちを全く考えずに自分の気持ちを押し付けた。
それでもいいと言ったのは自分なのに、吉木のいうように『もういいんじゃないか』と思ってしまった。
かわいらしい男子生徒たちの話を聞いて、焦ったんだ。
告白された榛原が、笑顔で応対をしたと知って悔しかった。俺からの告白はいつも熊ごしに受けとるのに、どうしてって。他のやつからの告白は、笑顔で返しただなんて。榛原を取られたような、自分だけその対象から外されたような気がして嫌だったんだ。
俺が責め立てても、榛原はくまを離さなかった。俺よりそんなくまがいいのかと、検討違いな嫉妬までして、一番言ってはいけない言葉をぶつけた。
実際、榛原との部屋を出ていってからも少しも追いかけてこない榛原にやっぱりくまさえいればいいんだなんて思ったりもした。
当たり前じゃないか。幼い頃から今までも、ここに入学してあらぬ噂を立てられている間も、一人ぼっちの榛原を支えてきたのはあのくまじゃないか。
あの時、一人静かな部屋の中で段ボールにくまを詰めている榛原を見た時、全てを諦めて手放そうとした榛原を見た時、後悔したんじゃなかったのか。
榛原の全てを受け止めるつもりでいたくせに、逆に追い詰めてまた突き放した。
くまごしに伸ばされた榛原の手を、どうして掴んでやらなかったのか。
「榛原!」
バタン!とやや乱暴に玄関の扉を開き、リビングへ入る。いつものように綺麗に整頓されたそれは、毎日榛原が掃除をしている証拠で、俺がいない間この部屋にくまを背負いながら一人掃除をする榛原を想像してずきりと胸が痛む。
ふとテーブルに手を置き、若干の違和感を感じた。
そうだ。いつもちょこんとカウンターに座らせていた小さなべあくんがいない。
そこだけじゃない、スリッパやテレビのリモコン置き、べあくんグッズで揃えていたものが全てリビングから無くなっているのだ。
「榛原、入るぞ!」
どんどん、とやや乱暴に榛原の寝室の扉を叩いて、返事が帰ってくる前に扉を開く。鍵はかかっておらず、すんなりと開いたそれに少し安堵して中に入れば、部屋の真ん中で榛原がいつも持っていたべあくんを抱き締めて座り込み、怯えたような顔をしてこちらを見た。
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