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6

「…ん」

目が覚めると、真っ白な天井が目に入り独特の鼻をつく消毒薬の匂いがした。視線だけを左側に移すと細い管が見えて、それが自分の腕から伸びていることに気付く。

病院で、点滴を受けているんだと理解したのはすぐのことで、ナースコールでも押して事情を聞かないと、と右手をあげれば、その手が誰かの物と重なっていた。

体を起こそうとしたけどできなくて、少しだけ頭だけを持ち上げてみれば、見覚えのある茶色の髪が見えた。

「…天ケ瀬…」
「…っ、!起きたのか…!気分は!?いや、いい。すぐに看護師を呼ぶからそのままいろ」

小さく名を呟けば、眠っていたはずだろうに一瞬にして反応をして起き上がり、俺を見てひどく驚いたような顔をした。それはすぐにくしゃりと心配そうに、泣きそうに歪められ今までになく優しく頭をなでられた。
ナースコールをすればいいのに、よほど焦っていたのか天ケ瀬は病室を駆け出していき、看護師を連れて戻ってきた。わざわざ詰め所まで行ったんだろうか。…俺のために…?

バカな期待はするなと思いながらも、そう考えてじわりと目に涙がにじむ。
先ほどまで握ってくれていた手がまだ熱い。

看護師は俺にまた後で医師に診察をしてもらうことを告げ、病室を出て行った。天ケ瀬が丁寧に入り口まで送り頭を下げるのを見て驚いた。

扉を閉めて俺の横たわるベッドのそばまで来て、横にあるイスに腰を掛けると膝に肘をおいて手を組み、ひどく気まずそうに頭をうなだれた。

「…ごめん、なさい」

迷惑を掛けてしまったことがいたたまれなくて、謝罪をする。力が入らなくて小さな声だったけど、天ケ瀬にはしっかり届いたようでいきなりがばりと顔をあげたかと思うと目を見開いて俺を見た。

「迷惑かけて…ごめんなさい」
「…っ、ちがうだろ!」

もう一度謝れば、天ケ瀬はベッドの上に拳を叩きつけた。

「…ちがう…。ごめん、は、俺だ。お前をここまでの状態に追い込んだのも…、お前を、自分の好き勝手に扱って傷つけたのも、全部、全部…!」

そのまま叩きつけたこぶしで、ぎゅうとシーツを掴む。天ケ瀬が握りしめるその個所から波紋のように皺が広がる。その手はぶるぶると震えていて、今にも血が滲みそうなほどに強く握られていた。

そんなに強く握ると、怪我をしてしまうかもしれない。そっと自分の手を持ち上げて、強く握りしめられた天ケ瀬の手の上にそっと重ねる。

「いいんだ、天ケ瀬…。…俺の方こそ、ごめんな」

もう一度謝罪をすれば、天ケ瀬が絶望したような顔をした。
…初めて見るな、とこんな状況にもかかわらず思わず頬が緩んで笑みが漏れる。

「嫌いな奴なのに…、お前を裏切った女の弟のくせに、面倒かけてごめんな」

そう言えば、今度こそ天ケ瀬の顔は色をなくした。



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