×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




6

俺と会長が校舎を出るときには、すっかり日は暮れて真っ暗になってしまっていた。本当はもっと早く寮に帰れるはずだったのに、会長があの後なかなか離してくれなかったせいだ。

「ありえない。こんな遅くなるなんて。もう誰もいないじゃないですか」
「いいじゃねえか。二人きりで堂々といちゃつけるんだ、何が不満だ?」

そう言って俺の手を握りしめたままニヤニヤと笑う。そう言う問題じゃないのに。こんなに暗くなるまで廊下で抱き合ってるだなんて、いつもの自分ならあり得ない行動に恥ずかしくて悪態をついてしまう。

「…食堂だって閉まってるし」
「俺の部屋に来ればいい。こう見えて料理は得意なんだ。うまいもん食わしてやる」

ああいえばこういう、とはこういうことか。何を言ってもにこにこと笑ってさらりと返してくる会長をじろりと睨むと、何が楽しいのかますます笑顔になった。

「…なんですか?」
「いや、いい顔だと思ってな。…俺の前では、いつも無表情だったからな。そんなに表情豊かなお前を見るのは初めてで気分がいい」


会長はとても嬉しそうにそう言った。そう言えば、俺は小さい頃から顔に感情が出にくい方で、母親がよく困ったって言ってたっけ。

「…物好きですね。こんな奴を好きになるだなんて」
「俺もそう思う」

皮肉って言った言葉を笑顔で肯定する。
ほんとに、何でこんな奴を好きになったんだろうな。会長なら、いくらでもよりどりみどりなのに。

「…図書室で、俺に淡々と『興味ない』と言った時の、凛とした姿に惚れたんだよ。」
「じゃあ、俺が興味津々だったらどうしてたんですか」
「愚問だな」

愚問ってなんだ。会長にしてみたら、自分に対してあんな態度をとる奴が珍しくて興味を引かれただけなんじゃないのか。そう思ってふいに聞いた言葉を鼻で笑って、立ち止まり俺の目の前に来てまっすぐに目を見つめてきた。

「お前がお前である限り俺に興味ある態度なんて取らなかっただろうから、その質問はもしもにならない。そうだろう?」


にやり、と勝ち誇った笑みを見せる会長に、やられた、と思った。

「…どうした?まだなにか疑問でもあるのか?」

無言で俯いてしまった俺に不思議そうに首を傾げる会長に、顔を上げないままその首にしがみついた。


「…あなたの、勝ちですよ。」


まんまとやられたのは、俺の方。今まで、こんな俺にかわいげがないと言うやつらは数多くいたけれど会長のように言ってくれる人はいなかった。自分の事が嫌いなわけじゃなかったけれど。それでも、ありのままの自分を認めてもらえることがこんなに嬉しい事だなんて思わなかった。

「そう言えば、勝負だったな。じゃあ、勝者に一つ褒美をくれないか。」
「なんですか」

首に腕を回したまま顔を上げると、会長がひどく優しく俺の頬を撫でて愛おしげに目を細めた。



「お前の色んな顔を見れる特権は、俺にだけにくれ。」



そんなの、とっくにあなたのものだ。


答える代わりに、笑顔を見せて自分から口づけた。


end
→あとがき

[ 87/215 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top