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「う…、ん」
どれくらい経ったのだろうか。ふと目が覚めて、ロルフは自分が堅い床の上に転がっていることに気づいた。
どうしてこんなところに?自分は確か、散歩にでていて…
「…!うぐっ!?」
ゆっくりと目を開いて視界に入り込んだ見慣れぬ部屋の景色に、ロルフは慌てて飛び起きた。そして恐らくは部屋の出口であろう扉に向かいそこへ行くが取っ手に手をかける直前に己の首が、びん!と引かれ喉を抑えてその場にしゃがみ込む。
「…!くび、わ…?」
ロルフは自分の首の違和感に、それをなぞり困惑した。自分に首輪をつけられている。しかも、それだけではない。その首輪の横から、じゃらりと伸びるモノ。ロルフはそこで初めて己の首を引っ張ったものの正体を見た。
「鎖…」
あろうことか、ロルフの首輪からは長い鎖が取り付けられており、部屋の中央に位置するベッドの柱にしっかりと止められていた。
「な、で…っ、」
困惑し、真っ青になりながら必死にベッドの鎖を外そうとする。だがとても頑丈なそれは引っ張ろうが何をしようが外れそうな気配すらない。それなら、と首輪に手をかけ、そちらを外そうとぐっと引っ張った瞬間
―――バチン!
「ギャンッ!」
己の首に、刺すような痛みが走った。
「なん…っ、」
「無駄だ」
驚き、首を抑えながら狼狽するロルフに後ろから声がかかる。驚いて振り向くと、そこには先ほどの吸血鬼が大きな椅子に座って足を組みながらロルフを刺すような眼差しで見つめていた。
「あ…」
いつからいたのだろうか。全く気配を感じなかったけれど。びくびくと視線をさまよわせるロルフに、しばらく見つめていた吸血鬼は、ゆっくりとした動作で椅子から立ち上がるとロルフのそばまでより、おもむろに鎖を引っ張った。
「ぐう…っ!」
引っ張られたことでのどが締まり、苦しくてうめき声を上げると吸血鬼は楽しそうに目を細め口角をあげた。
「この私に無理矢理貴様の汚れた犬の血を飲ませたことは万死に値する。だが、ただ殺したのでは飽きたらん。そこで、だ。プライドの高い貴様等がもっとも屈辱を味わうであろう事をしてやろうと決めたのだ。」
目の前の金の瞳が憎悪に燃える。するり、と頬をなでられ、その殺気とは全くかけ離れた優しい手つきにロルフは逆に震えた。
「――――貴様は、今日から私のペットだ。」
「な…!」
にやりと笑いながら行われた宣告に、ロルフが驚愕の目を向ける。
「ふ、ふざけるな!どうして俺が…っ、ギャンッ!」
思わず吸血鬼につかみかかると、途端に先ほどと同じ痛みが首もとに走る。
「逆らわん方が身のためだ。貴様につけたその首輪には私の魔力を注いである。こうして私が念を送れば、」
ばちんっ!と、再びキツい電気のようなものが走る。
「ギャンッ、…っ、ギャイン…!」
二度、三度と間をおかず電気が走り、そのたびにロルフは犬のような悲鳴を上げた。
「ひ…、う…っ、」
繰り返された仕置きに、のどを押さえて床に倒れ込む。
吸血鬼はそんなロルフを至極満足気に眺め、うずくまるロルフのそばにしゃがみ込んで髪をなでた。
「貴様は今日より私の許可なしにこの部屋から出ることは許されない。私の怒りが収まるまで、貴様は私のペットでいるのだ」
「い、いやだ!頼む、返してくれ!家に…っ、家に」
「だまれ」
静かな一言ではあるが、自分よりはるかに強い気に当てられロルフはぐっと言葉に詰まる。
「言葉遣いには気をつけろ。私を誰だと思っている。我が名はリュディガー。リュディガー・ヴァンディミオン。吸血鬼の王族であるぞ」
告げられた名に、ロルフはまた目を見開いた。
この人…、イアン様の…!
すっかり言葉をなくしたロルフに、リュディガーは冷えたまなざしを向ける。
「私のことはご主人様と呼ぶのだ。帰りたくば、せいぜいペットらしく振る舞いご機嫌をとるがいい。」
笑いながらロルフに背を向け部屋から出ていくリュディガーを、ロルフは絶望のまなざしで見送るしかなかった。
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