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4

そんな。どうして。


長城は、がたがたと震える体を止めることができなかった。この人が、自分の事をそんな目で見ていただなんて。

怖い。怖くてたまらない。
末武に無理やりされた時でも、こんな恐怖を感じることはなかった。この人に、犯される。そう考えるだけで恐怖のあまり狂いそうだ。逃げようと身を捩るたび、ポケットから先ほど末武にもらったキーホルダーの音がする。



いやだ。いやだ。犯られたくない。末武以外を受け入れるだなんて、したくない。



そう考えて、長城ははっとする。今、自分は何を思った?末武以外は嫌だと。そう思わなかったか?自分で自分の思ったことが分からなくなって、長城はますます混乱する。そして、会長の手がするりと自分の服の裾から忍び込んできた瞬間。


「ひ…、いや、いやだっ…、りゅ、…!」
「は?りゅ?」


長城の口から出たのは、末武の名だった。


小さく、長城が名を呼び、会長がそれに怪訝な顔をしたその時。


ズッガアアアアン!!

すさまじい破壊音がして、生徒会室のドアが吹き飛んだ。

「な、なん、なに…!?」

吹き飛ばされドアの無くなったその入り口に、ゆらりと怒りのオーラをまといながらゆっくりと足を踏み入れ二人の元に近づいて来る人物。それはまさに、今長城が口にした末武だった。

「…っ、す、末武…っ、うわ!」

突然の登場に動揺する会長を無視し、末武は倒れている長城を抱き起すとひょい、と俵担ぎにしてすたすたと歩き出した。そして、生徒会室から出る直前、くるりと会長の方へ振り返る。

「…これ、俺のだから。…手ぇ出したら、殺す。」
「…!」

ぎらり、と殺意のこもった視線と嘘とは思えないほど威圧感のある言葉を投げられ、会長はその場にへなへなと座り込んでしまった。



「末武っ、おろせ!降ろしてくれ!」

暴れると、大人しくしろ、と尻を叩かれ羞恥で真っ赤になる。ようやく末武が長城を解放してくれたのは、末武の部屋についた時だった。ベッドの上に座らされ、拘束された腕を見て舌打ちをして乱暴に取り払いネクタイを窓から投げ捨てる。
ばん!と思い切り閉められた窓の音に長城がびくりと体を竦ませると、末武は蹲る長城の目の前にやってきて後ろの壁に両手を付き長城を閉じ込める形で正面から見据えた。

「…バカ野郎が。のこのこついていきやがって。」

舌打ちすると同時に、ガブリと口に噛みつかれる。びり、とした痛みに長城は顔を歪ませるとなんで、というような目で末武を見つめた。

自分を射抜くような末武の目に、どくどくと心臓が早鐘を打つ。どうして。なぜ、末武は怒っているのだろうか。さっきの、あのセリフは、一体どういう意味なんだろうか。

「てめえに、問題を出してやる。正解なら褒美をやるよ」

どこか熱っぽい目を向けられ、長城はごくりと喉を鳴らした。


「てめえは、脅されたとはいえなぜ俺に何度も抱かれるのに本気で抵抗しなかった?」


末武の問いかけに、ひゅ、と息をのむ。
抵抗なら、した。泣いて、叫んでもやめてくれなかったのはそっちじゃないか!写真を撮って、ばらされるのが嫌ならって、何度も何度も強要してきたのはそっちじゃないか!

怒りと悔しさで、じわりと長城の目に涙が浮かぶ。その涙を、末武に優しく拭われて長城は思わずじっと末武を見つめた。
深い茶色の眼差しが、じっと自分を見つめる。その目だ。自分を抱いている間、末武はいつもその目で見つめてきた。その目に見つめられると、自分は何も言えなくて。抵抗なんてできなくなって。


――――――もっと、その目で見つめられたいって思ってしまうんだ。


「ふ…っ、」

ぽろりと、長城の目から涙が零れ落ちる。

行為の間中、末武は自分に卑猥な言葉を言うことや格好などを強要はしたけれど、いつだってまるで壊れものを扱うように抱いた。後処理だって、いつだって末武が傷一つつかない様に丁寧にしてくれていた。


ぼろぼろと、止まることを知らないかのように涙が零れ落ちる。末武が、流れる涙を拭いながらじっと長城を見つめた。


「もう一度、聞くぞ。本気で、抵抗したか?」


末武の問いに、ゆるゆると頭を振る。末武の言うとおりだ。初めて抱かれた時、長城は本気で抵抗しなかった。本気で嫌がれば、末武は冗談だとすぐに拘束を解く気でいた。
長城だって男だ。男であるがゆえに、弱点はわかる。本気で嫌だったのなら、全力で抵抗してそこを攻めて、末武の下から逃げ出すことだってできたのだ。

だが、『喰わせろ』と末武が自分に馬乗りになった時、長城は一瞬見惚れてしまった。この、百獣の王のような男に、今から自分は抱かれるのだと。捕食されるのだと、歓喜したのだ。


「じゃあ、なぜだ。なぜ俺に抱かれた」


再度の問いかけに、長城が涙を流しながら震える声で言葉を紡ぐ。



「…おれ、が、…末武を、好きだから…です」


両手で顔を覆い、震えながら告白した長城を末武がそっと抱きしめた。



「俺はな、色んな奴らにイロを掛けられる。一回でもいいからってやつらがわんさか寄ってくるんだ。」


末武の言葉に、長城は余計に涙を流した。胸がずきりと痛む。確かに、末武は昔からとても有名だった。告白だって後を絶たないし、それこそセフレでもいいからと迫られている光景はいくらでも見かけた。
長城は、末武の口からその事実を改めて聞かされることに胸がひどく傷んだ。



「そんな俺が、だ。てめえ一人を執拗に、脅してまで抱くのはなぜだかわかるか?」



長城は、問われたことに思わず顔を上げた。…今、なんて。


「答えろ。今まで誰の言うことにも耳を貸さなかったこの俺が、お前を抱くたび約束だからと真面目に授業に出るようになったのはなぜだかわかるか?今、クソバ会長に襲われそうになったお前を助け、『俺のものだ』と言ったのはなぜか。」


末武の問いに、長城の目にふたたびじわりと涙が浮かぶ。零れ落ちそうなそれを必死に我慢して、長城はどくどくと激しく波打つ胸をぎゅうと握りしめた。



「…お、俺のことが、…好き、だから…?」
「正解だ」


まさか、と思いつつ答えた瞬間、末武がにっと笑ってカプリと優しく口を塞ぐ。ちゅ、と今までした事も無いような甘いキスに長城の顔に一気に熱が集まる。


「お前が好きだ、柚季。正解したお前には褒美として俺をやるよ」



そう言って、末武は長城を強く抱きしめた。

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