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「あ」
寮に向かっていると、前から伊集院さんがやって来た。俺に気づいて、にっこり微笑んで手を挙げてくれる。見目麗しいね。
「こんにちは!今帰りですか?」
「ああ、原口は職員室に呼ばれてな。先に食堂で席を取っておくと言って別れたんだ」
伊集院さんは生徒会長だから生徒会専用席があるんだけど、兄ちゃんと一緒に食べたいからっていつもわざわざ一般席でご飯を食べる。愛されてんなあ、兄ちゃん。
「晴哉も一緒にいかないか?」
「いいの?」
「もちろん。」
にこりと笑って俺の頭を撫でて、肩に手をやり一緒に行こう、と促してくれた。
食堂について席に着くと、伊集院さんがそうだ、とポケットに手を入れて何かを取り出した。
「手、出して」
言われたとおり、両手を受けるような形にして差し出す。
「これ、晴哉にやろうと思って」
ころん、と手の中に落とされたのは、黄色いインコのストラップだった。
「うわあ…!」
そのストラップは、俺が初めて兄ちゃんに世話を任されたインコにそっくりだった。
「晴哉のお気に入りと似てるだろう?」
「ありがとう!」
嬉しくて嬉しくて、ぎゅっと握りしめてからいそいそと携帯につける。
「えへへ」
携帯を持ち上げて、ゆらゆら揺れるインコを見てにこにこしてると伊集院さんも微笑んでくれた。優しいなあ。伊集院さん、大好き。
「邪魔」
伊集院さんとにこにこ微笑みあってると、俺の背中にどんっと誰かがぶつかった。驚いて振り返ると、北島がまたひどくうっとおしそうな顔で俺を見下ろしてた。
「んな狭いとこで携帯なんか掲げてんじゃねえ。大人しく座ってろっての」
「な…!」
なんだよそれ!
ひどく理不尽な物言いに、怒って言い返そうとしたら北島が伊集院さんを睨んでいた。
なんでこいつ、伊集院さんにまで喧嘩売るような態度取ってるんだ!
「チッ」
伊集院さんから俺に視線を変えて、じろりと睨んでから舌打ちをして北島は去っていった。
なんだよ、なんなんだよ。
「…俺、そんな邪魔だった?」
ちょっと悲しくなって伊集院の方へ向いて聞いてみる。伊集院さんは顎に手をやり、何やら考え込んでいた。
「伊集院さん?」
どしたの?と首を傾げると、伊集院さんははっとして俺を見た。
「ああ、すまないな晴哉。さっきのは彼氏か?」
「ち、違うよ!」
とんでもない勘違いだ!慌てて必死になって否定すると、伊集院さんは困ったように眉を寄せた。
「…彼は昔の俺だな」
ぽつりとつぶやいた言葉の意味はわからなかった。
それからすぐに、兄ちゃんがやってきて三人仲良くご飯を食べたんだけど、目の前であーんはやめてほしかったなあ。
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