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7

「おめでとう、春乃君。また負けてしまったよ。…君は家族に愛されてたんだね」

僕に近づき、苦笑いを浮かべながらぽつりとつぶやく委員長を一颯がじろりと睨んだ。

「あったりまえだろうが!学校で聞いたぜ、とんでもねえこと春乃に吹き込みやがって!ふざけんなよ!春乃は俺たち家族の大事な末っ子なんだからな!」

僕の肩を抱き、一颯ががるると委員長に食って掛かる。それを見ていた父様がふ、と微笑んで僕の頭をポンとたたいた。

「…そうだよ、春乃。君は麗香がその命と引き換えにこの世に残してくれた大事な大事な子だ。お前が生まれてきてくれたことにどれほど感謝したか。お前は麗香がこの世に生きた証だ。麗香が私たちに残した愛そのものなんだよ」
「…そうだな。母さんがお前を生んでくれなかったら、俺はこんなに可愛い弟に会えなかったんだからな。」


父様と兄様の言葉に、胸がいっぱいになって涙が溢れそうになった。


僕は、生まれてきてよかったんだ。


「…おめでとう、春乃くん」


ひどく顔を歪めてその場を去る委員長の背中を僕は無言で見送った。


「はるの〜ん!おっはよ〜!優勝おっめでと〜!」
「いやっほう!さすがはるのん!委員長撃退!」


翌日、学校に行くと一颯の友人たちが靴箱の所で声を掛けてきた。この二人、いつもテンション高いよね。

「あれからだいじょぶ?委員長にまたセクハラ発言されたら言うんだよ、お兄ちゃんたちがぶっとばしてやるからね!」

誰がお兄ちゃんだ、誰が。

「別に、そんな事頼んでないけど。面倒起こされたくないからやめてよね」

ふん、とそっぽを向いて靴を履き教室に向かおうとすると友人たちがにやにやと笑ってついてきた。

「…なに、その笑い」
「へへ、そんな冷たいふりしたって無理無理!俺らちゃんとわかってるもんね!」
「そうそう、はるのん、俺らに処罰がいかない様にいつも自分一人で何とかしようとするんだよね。」
「そんでわざと冷たい言い方して俺ら怒らせようとして、でもそれって『関係ない』って言わせるためなんだよね。」
「な…!」

ねー、と顔を見合わせて笑いあう二人に、そんなことない!と言おうと振り返る。

「あー!はるのん、なんでわかったのって顔してるー!」
「かわいい!はるのん超かわいい!顔真っ赤だよー!」
「う、うそ!?」

『真っ赤な顔』と指摘されて思わず慌てて頬を押さえる。その仕草を見て二人が目を見開いた。

「…はるのんが…、はるのんが素で焦った…!」
「冗談なのに…!超レア…!」

だ、騙された…!
こいつら、やっぱり一颯の友達だ!

かわいい、かわいいと連呼されて悔しくなってぷい、とそっぽを向いてすたすたと歩き出すと二人が慌ててついてくる。するとその向こうから『春乃さま〜!』と叫んでこちらに向かってくる人物が現れた。

「春乃様、ご無事ですか!こいつらに何かされましたか、排除してやりましょうか!」
「「い、委員長…!?」」

駆けつけるなり僕の足もとに跪き、じろりと二人を睨む委員長に二人が驚いて大声を上げる。

今日の朝、僕は一颯より先に出て委員長の家に向かった。そして、昨日の宣言通り奴隷になるように念書にサインをさせてやったんだ。『これ以上付きまといません』って約束させるより、奴隷として側においてた方が害はない。結構本人も喜んでるみたいだし、いいんじゃないかな。

…僕は、委員長はほんとは僕を愛してるんじゃないんだと思う。まだこんなにおかしくなる前に、彼は家族愛に恵まれていないと言っていた。きっと僕の母様の話をどこからか聞いて、親近感が一気に依存になってしまったんじゃないかと思う。
だから僕は、奴隷と称して彼を少しづつ人間に戻していこうと思っている。仮にも風紀委員長に選ばれた人間だ。僕に依存する前は立派な人柄だったと聞いた。

彼に本当の愛を注ぐ人間が現れるまで、彼が本当の愛に気付くまで。


「大丈夫だよ。何もされてないから」
「そうですか!」
「それより、言った通り風紀の皆と君の親衛隊とのお茶会の方はちゃんと予定組めたんだろうね?」
「はい!明後日、皆とお茶会をしてきます!」


まずは、僕以外の人間との普通の触れ合いから。親衛隊の隊長がね、君をとても心配しているんだよ。コンクールの前日に、こっそり僕に話に来たんだ。彼は一言も口にはしなかったけど、きっと君を愛してる。

歩き出す僕の後に、一颯の友人と委員長がぎゃあぎゃあわめきながらついてくる。


「うるさいよ。迷惑」
「うわ!はるのんがいつものに戻っちゃった!」
「だから?」


妖艶に微笑んで聞き返してやるとなんでもありません、と黙り込む。



僕は、綾小路春乃。いつだって、気高く、強く、美しく。さすが母様にそっくりなだけあるね、と言ってもらうために。父様の子供だけあるね、と言ってもらうために。
兄様の弟だけあるね、と言ってもらうために。


…さすが一颯と双子だね、と言ってもらえるように。


胸を張って歩く僕の先で、一颯が手を振っていた。


end

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