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6

「た、たすけてくれ、会長!」
「あんたフェンガーだろ!早くあいつをなんとかしろ!」

風紀委員の後ろで縮こまっていた五人の生徒が、アルフレートを見とめるなり手を伸ばして縋ろうとした。だが、その瞬間にドラゴンの喉が赤く光り、喉元のウロコが逆立った。

「あぶないっ!」

次の瞬間には、逆立ったウロコが全てまるで弾丸のように五人の生徒に向かって飛ばされる。
いち早く逆立つウロコに気付いたアルフレートは咄嗟に光の壁を作り5人を囲む。それでもドラゴンの鱗は光の壁に突き刺さり、危うく貫通するところだった。

何て強いんだ…!

鱗だけでこれほどの破壊力を持つドラゴンの力を、自分のフェンガーの力で押さえきれるのだろうか。ドラゴンの方へと目を向けると、その金の瞳が真っ直ぐに自分を見つめていた。

その目の光が優しく光り、先ほどまで怒りに満ちていたそのオーラがふと温かいものになる。

「…おい、貴様。さっき言ったことは本当なのか。」

ドラゴンから目をそらさずに後ろにいる生徒にそう問いかけると一瞬聞き返してきた生徒が、そうです、と小さく肯定の返事をした。

「信じられないかもしれませんが、あれは…、あれは、風紀委員長のコルネリウス様です…!」

その答えを聞いたアルフレートは、信じられない、とは思わなかった。なぜなら、自分をまっすぐに見つめるそのドラゴンの眼差しと自分に向かうドラゴンのオーラは、あの時感じたものだったから。

中庭で、自分に向かって飛んできた弓矢を代わりに受けて自分を抱き上げたコルネリウスと同じものだったから。

「…お前らは、何をしたんだ。」

それは先ほどから光の壁に守られる5人の生徒に向かって発せられたものだった。ドラゴンなどの強力な魔物の姿を持つザッヘは、その力を滅多な事では振るわない。自分の強大な力をコントロールするために、心身ともにはるかに優れた者が多い。己をコントロールすることができなければ、うちに宿る強すぎる力に身も心も乗っ取られ、ザッヘではなく完全な魔物となってしまうからだと聞いたことがある。

今なら、コルネリウスがなぜ全てにおいてあんなにも秀でていたのかがよくわかる。だからこそ、アルフレートは後ろにいる生徒に理由を問いかけた。

先ほどの鱗は、全てこの五人にのみ向けられていた。怒りに狂ってザッヘに変貌を遂げてしまったのだとしても、コルネリウスは目的の怒りの標的以外にその力を振るってはいなかったことがこの場の状況からよくわかる。現にドラゴンを押さえようとしている生徒たちは傷一つついていないのだ。
人を傷つけることを最も嫌っていたに違いない。風紀委員長としてこの学園を常に守ってきた、誰よりも正義を重んじていた、そんなコルネリウスが、ザッヘに変貌してしまうほどのことをこの5人は何かをしたに違いない。アルフレートはそう信じて疑わなかった。

「この生徒たちは、アルフレート様を…あなたを、襲う計画を立てていたのです」

アルフレートの問いに答えたのは、コルネリウスを止めてくれと叫んだ生徒だった。



5人共、決まりが悪そうに唇を噛みそれぞれに目を泳がせている。その仕草からそれが嘘ではないことが分かったアルフレートは動揺を隠しきれずにいた。

まさか、そんな考えを持つ者がいるだなどと考えたこともなかった。確かにアルフレートは俺様と呼ばれ時に強引であると言われていた。それでも、自分を襲おうなどと思う輩は一人もいなかった。俺様であるそれ以上に、その実力を認められていたからだ。

「先ほど…、コルネリウス様は、私と共に校内の見回りを行っていたんです。その時に、一つの空き教室でこの5人がそう計画しているのを偶然にも聞いて、すぐにその場に飛び込んで5人を補導したのですが…その時に、その、道具や薬が…」


取り押さえた五人の所持品検査をした時に、それぞれの持ち物から出てきたもの。それは、ビデオカメラと、ロープと、薬と、様々ないかがわしい玩具だった。見つかって取り押さえられた生徒たちはその場で開き直ってそれぞれに文句を言いだした。


『だあってよお、むかつくじゃん?えっらそうに人を見下したような態度だしさあ。』
『そうそう、これで躾けて大人しくさせてやろうかと思ったんだよ。学年の奴らん中には今アイツに対して不満を持つ輩が多いんだぜ?』
『遥かに劣るくせに、風紀委員長にいつも嫌がらせをしてる女々しいやつだってな。』
『あんただって、あんなやつ嫌いだろ?一緒に泣かせてやらねえ?あんたのためにやってやろうとしたんだからさあ』
『ふざけるな…!』

負け惜しみとも取れるあまりにもひどい供述の数々に、コルネリウスは怒りに真っ赤に染まった目を5人に向けた。

『俺の為だと…!あいつを、辱めることが俺の為だと!ふざけるな!誰がそんな事を頼んだ!誰があいつを嫌いだなどと言った!こんな俺を認めて己を高めるために意識してくれているあいつを女々しいだと…!
噂を聞いて勝手に信じて、あいつを陥れようとするような腐った人間が、崇高なるヤツを見下すなど許さん…!』


一瞬だった。
その、最後の部分を聞いたコルネリウスは瞬く間に全身を怒りに染め、ドラゴンへと変貌してしまった。


いくら罪人といえど、コルネリウスに生徒を傷つけさせるわけにはいかない。風紀委員総出で必死にコルネリウスを制しようと試み、5人の生徒を守る。だが、コルネリウスを止められるものはただ一人しかいない。


「あなたにしか、コルネリウス様は止められないんです!コルネリウス様が愛している、あなたにしか!」

話している間片時も目をそらさずにじっと自分を見つめる気高きドラゴン。
アルフレートも合わさった時からその目をそらさない。逸らさないのではない。


その熱き眼差しに、逸らすことができないのだ。


「…コルネリウス」

気付いていた。いつも自分に向けられていたその眼差しが、今と同じく慈愛に満ちていることを。どれほど嫌味を言おうと、絡もうと、側に行けばそれ以上に温かなオーラに自分がつつまれることを。

ザッヘは、愛する者を守る時にのみその力を解放する。



このドラゴンは、俺を愛するがゆえに現れたのだ。



「…っああ、もう!」


ぐしゃぐしゃと髪をかきまぜ、アルフレートはドラゴンへと向かって一歩また一歩と足を進める。ドラゴンは怒りに大きく広げていた翼を大人しくたたみ、首をもたげ威嚇していたその身を小さくかがめ、アルフレートの前でひれ伏した。

本来、ザッヘになってしまったものは怒りのあまりに人の言葉を理解しないし目に映るものを知り合いであっても認識しない。怒りの対象を破壊するまで止まることはないのだ。

だがどうだろう。このドラゴンは、自分の前で忠誠を誓うかのごとくひれ伏している。
その姿に、アルフレートは胸が激しく締め付けられるのが分かった。

「…コルネリウス」

自分の前でひれ伏すその頭にそっと手を乗せる。一瞬ピクリとまぶたが動いたが、大人しく目を閉じ全てを覚悟しているかのようだった。

…俺に、捕えられるのを待っているのか。

頭に置いた手をそっと滑らせ、鼻先を撫でる。両手でそっと包むかのように手を添え、じっとドラゴンを見つめた。


「…いいだろう。このアルフレートは、今からを持ってコルネリウス、貴様のものだ。」

愛してやる、とつぶやくと同時にドラゴンに口づける。

その瞬間、ひれ伏していたドラゴンは体を起き上がらせると一度大きく咆哮した。そして、畳んでいた翼を大きく広げ、目の前にいるアルフレートを軽く口でくわえ、ばさりと羽ばたくと空へと飛び立った。

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