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お人好し美形×内気平凡

また、か。

「うん、うん…そうか。うん、たしかにな。」

まだまだ終わりそうにない電話を横で聞き流しながら、手に取った本のページをめくる。読んでるつもりでも、内容なんて全く頭に入ってこない。ちらり、と横を見れば、少し嬉しそうに電話をするイケメン。

僕の、彼氏。

彼には、僕と付き合う前にとてもかわいらしい彼氏がいた。幼なじみで、ずっとずっと好きで、大事に大事に扱っていたらしい。
二人は学校でも有名なカップルで、僕も何度か幸せそうに歩く二人を見たことがある。
でも、大事にしすぎたせいかそんな扱いに幼なじみの彼は不満を抱き、新しい彼氏を作って彼を振ってしまった。元々お人好しな彼は、幼なじみが幸せになれるならと身を引いたんだ。

そんな傷心中の彼が元彼とその新しい恋人との仲むつまじい姿を見たくなくて逃げてきたのが僕のいる図書室。誰もいつもなら来ることのない放課後遅くの図書室に現れた彼を見てびっくりしたけど、軽く会釈だけして僕はすぐに持っていた本に目を落とした。彼も、何も言わずに空いている席に座った。
それからも、彼は幾度となく僕のいる図書室に現れては一人椅子に座り、頬杖をついてぼうっとしたり、何か本をぱらぱらをめくったり。そんな彼が、いつも同じ場所で本を読んでいる僕に声をかけてきた。

『…それ、いつも何の本読んでるの?』
『え…料理の本?』
『料理好きなの?』
『いや…そういう訳じゃなくて、見て楽しんでるだけなんだ。おいしそうだなって』

僕の返しがよほどおもしろかったのか、彼はなんだそれって噴き出して笑った。
それが、始まり。
それから彼は図書室にくる度に僕の隣に座り、話しかけてくるようになった。そのうち、彼から告白されて、付き合うようになったんだけど…

付き合ってから2ヶ月ほどたったある日、彼の電話に幼なじみから電話がかかってきたんだ。
どうやら、幼なじみ君は今カレに本当に愛されているか不安で、彼に話を聞いて欲しい、相談に乗って欲しいと言っていたらしかった。

それから、ずっとこんな感じが続いている。僕と彼が二人きりでいる時をまるで見計らったかのように電話がかかってくるようになった。
電話だけじゃなくて、学校でも僕と二人でいるときによく姿を現すようになって…長い休み時間や、放課後約束していた時に彼が幼なじみに泣きつかれてそちらを優先させる事が多くなった。

いつも電話を切った後や、ドタキャンをした次の日など本当に申し訳なさそうに謝ってくる。だけど、腹が立つとか悲しいとかよりも、彼が幼なじみにまだ未練があるのだとあちらを優先した時のその表情を見て悟ってしまってからは、いいよって笑って許すしかなくなった。

「ごめんな、せっかく二人きりでいるときに。あいつ、彼氏と喧嘩したらしくて」
「いいよ」

本当にごめん、と謝りながら僕を抱きしめるその腕は、本当は誰を抱きしめたいんだろうかなんて思いながら本をめくった。


もう、解放してあげなきゃ。そう決断しなければならなくなるのにそんなに日にちはかからなかった。

「どうしたんだよ」
「…あの、ね。またお話聞いて欲しくて…」

そう言って彼氏の袖をかわいらしく摘まむ幼なじみ君は、少し俯いてちらりと上目遣いをしている。何とも思わない僕でもドキッとするその仕草に彼の頬も少し赤くなっているのが分かる。

「あ…、でも、彼とご用事があったんだよね?ごめんなさい…」
「あ、いや…」

口ごもりながら僕をちらりと困った眼で見る彼。今日は、久しぶりに彼と放課後にデートをする予定だった。『いつものお詫びに今日はうんと恋人同士しような』と言った彼の言葉が嬉しくて、頷いて手を取り合った瞬間に幼なじみ君が現れたのだ。
彼が僕の方に向いた瞬間に、幼なじみ君が勝ち誇ったようにくすりと口元を歪めたのを見た。それに、ああそうか、と悟った僕は幼なじみ君が望んでいるであろう言葉を口にすることにした。

「…いいよ。行ってきなよ、僕のことはもういいから」
「…あ、そうか?悪い…」
「その代り、聞きたいんだけど」

僕がいつものようにそう言うと、ほっとしたような申し訳なさそうな顔でそれでも幼なじみ君を優先する言葉を口にした彼の言葉を遮って、幼なじみ君に目を向ける。

…僕は、いい人や聞き分けのいい子なんかじゃない。ただ黙ってやられっぱなしになっているなんてまっぴらごめんだ。最後に、小さな仕返しはさせてもらうよ。

「ねえ、君はどうして僕の彼氏にばかり相談を持ちかけるの?」
「え…、だって、僕、彼とは一番の親友で…」
「それって、君が一方的にそれを押し付けたんだよね。ほかに友達は絶対にいないの?…彼に、一方的に別れを告げておいて、自分の新しい彼氏の事を相談するなんて普通の神経じゃないよね」

僕の言葉に、幼なじみ君は驚いたような顔をした。同じようにそのそばにいる彼も、何を言い出すんだと言ったような信じられないとでも言いたげな顔だ。

「ど、どうして!だって、僕たちは友達で…、僕、ほんとに困って…」
「…本当に?上手くいってない人が、元彼に相談しになんて行ったら普通はよりを戻したいのかって疑われるよ?」
「な、何言いだすんだ!コイツは本当に困って…」
「だから、もういいよ」

幼なじみを庇う彼の言葉を遮った僕の声はやたらと廊下に響いた。

「な…」
「だから、もういいって。君は彼が心配で、彼の力になってあげたいんだよね?だから、そうしてあげればいい。これから先も、ずっと。そしたら、やっぱり彼は君の方がいいってよりを戻せるかもしれないよ。…少しもその気がないのに、わざわざ彼氏といる時間を狙ってまで相談に乗ってほしいって君を引っ張ったりしないよ、普通はね」
「ち、ちが、僕は…」
「違わないよ。少なくとも僕は違うとは思わない。…ねえ、君に教えてほしいんだけど。例えば、君の今の彼氏が僕の元彼だったとして、彼氏が僕ばかりを優先させても君は平気かい?」
「へ、平気だよ!だって、お友達が困ってたら助けてあげてほしいって思うのが優しさじゃないの!?」
「そう。じゃあ僕はきっと優しくないんだ。だって、君にホントは嫉妬してばかりだったもの」

彼がはっとしたように僕を見つめる。幼なじみ君は気まずそうに目を泳がせて、それでも彼の服の袖を離さない。

「だから、もういいよ。これから先もそう言うのが続くって思うと、しんどいんだ。嫉妬するくらいなら、自分の物じゃなくていい。初めから君の物だって思ってればよかった。そうすれば…」

こんなにも、悲しい思いをしなくて済んだ。辛い思いをしなくて済んだ。…彼を、好きにならずにいればよかった。

最後の言葉は、聞こえないほどに小さなものだっただろう。それを出せるほどの気力はもう残ってなかった。浮かんだ涙を見られないように背中を向けて歩き出すので精いっぱいだった。僕を呼び止める声も、追いかけてくる足音も聞こえなかった。つまりはやっぱりそういうことだったんだな、と納得した。

初めから、彼は幼なじみ君のものだったんだ。

ぼろぼろこぼれる涙は、拭っても拭っても溢れてきて何だかそれがおかしくて笑った。


次の日、腫れてしまった目をどうしてごまかそうかななんてぼんやりと考えながら俯いてとぼとぼと通学路を歩く。下を向いて歩いてたから、前に人がいるだなんて気が付かなくってぼすんと誰かにぶつかってしまった。

「す、すみませ…」

慌てて頭を下げて顔を上げて、途中で謝罪の言葉は止まってしまった。腫れて開きにくい目をごしごしと擦っているとその手をそっと取られて握られる。

「…そんなに擦っちゃだめだよ」
「あ、なん、…なん、で…?」

ふふ、と優しく微笑んで擦った瞼をそっと撫でられる。その温かさに胸の奥がちくんと痛んで、ぽかんと開けていた口をきゅっと閉じると目元をなでていた手で今度はそっと唇をなでられた。

「…唇も、そんなに噛んじゃだめだよ。傷が付いちゃう…」
「…」
「…今迄、何回もそうして傷ついてたんだろうね、この唇」

申し訳なさそうに眉を下げるその顔は、ずっと僕が見ていた顔で。でも、昨日までと一つだけ違った。

「…どうしたの、その頭…」
「ああ、これ?」

笑って自分の頭をなでる彼のその頭には、昨日までさらさらと流れキャラメル色に輝いていた髪が一本もなかった。

「昨日、剃ったんだ。多大なる反省の意味を込めてね」
「はんせい…?」
「うん。許してもらえるかどうかわかんないけど、とりあえず。きちんと気持ちを入れ替えましたって言う証拠にね。本気で許しを請うための行動は、これから」

そう言って僕の手を取ったまま、彼は片膝をついてまるで姫に求愛をする王子のように胸に手を当てた。

「…昨日、お前に言われるまで全然気が付かなかった。それだけ、甘えてたんだ。あいつ…幼なじみが困っていると、そっちを優先させていたのはオレが甘かったせい。そのせいで好きなやつに嫌な思いさせてるとか、ちっとも思いつかなかった俺は大馬鹿者だ。…お前が言った、あの言葉はその通りだよ。同じ立場だったとして…俺はお前が元彼を優先させたとしたら許せない」

じっと見つめられて、心臓がばくばくと高鳴る。昨日で吹っ切れたはずなのに、やっぱり目の前にすれば彼が好きで。

「未練があったわけじゃないって言っても信じてもらえないと思う。そう思われる行動をしてきた俺の自業自得だ。…だけど、お前とアイツは違うんだ。あいつが元彼と上手くいってないって泣きついて来ても、可哀そうにってしか思わなかったけど…お前が『もういい』って、泣きそうになってるのを見て心が引き裂かれるかと思った」

こんな往来で跪く彼を見て通りがかる人たちは興味津々で見てくるし、中には立ち止まってひそひそと話している人もいる。

「や、やめてよ、こんな…彼に勘違いされるよ?」
「やめない。勘違いって何?俺が勘違いされて困るのはお前だけだ。…今さら、信じられないと思う。でも、今度こそ間違わないよ。だから…」
「…で、でも、彼に、呼ばれたら、また…」
「いかない。あいつにも、昨日はっきり言った。もう二人きりでは相談に乗れないし、電話もできないって。どうしても話を聞いて欲しいときは、俺の彼氏の前でだって」
「…かれし?」
「…許してくれるなら、だけど。俺の彼氏、でいてくれるならだけど」

まっすぐに、迷いなく僕を見つめるその目には僕だけが映っている。同じように僕の目にも、彼だけが映って…昨日散々泣いたはずなのに、彼がぼやけたかと思うと僕の目からはぽろぽろといつの間にか涙がいくつも零れ落ちていた。

「情けない彼氏でごめん。もう二度と同じことはしないし、泣かせないから…もう一度、オレと付き合ってくれますか?」
「でも、ぼく…っ、聞き分けいいふりして、ほんとはひどいことばかり…っ、」
「それも、俺のせいだ。ひどい事なんてお前は少しもしていないよ。聞き分けのいいようにしてくれていたのは、俺のためなんだよね?…ごめんね。もう、我慢なんてしなくていいから」

だから、お願い。

そう懇願して手の甲に口づける彼に、声を出せずに何度も頷く。


今まで我慢していた分、溢れた想いが我慢できなくなった僕は大声で泣きながら彼に抱きつくと、彼はしっかりと僕を抱きしめ返してくれた。

その腕のぬくもりが、今度こそ僕のものなんだという喜びに、もう二度と離さないでと小さくつぶやけば彼はそっと僕に口づけた。



end

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