×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




敬語年下平凡×俺様会長

いいな、と思った。


「ねえねえ、疲れたよ〜」
「ん。おいで」
「…」

急に廊下にペタンと座り込んだ幼馴染に両手を広げる、平凡な男。そいつがそうした瞬間幼馴染が顔を赤くして同じように両手を広げると、その平凡は両手を広げたまま幼馴染に近づいてひょいと抱き上げた。

「くっつきたいならそう言えばいいのに」
「違うもん。疲れたんだもん」

くすくす笑う抱き上げた男にしっかりとしがみつきながら真っ赤になってむくれた顔をする、俺の幼馴染。この二人は一年前から恋人同士で、幼馴染がこの平凡の事を好きで好きで俺を使って自分の事を好きかどうか確かめるために色々した。俺がさせられた。しかも、こいつの言うことを聞いてやったってのにこいつは一時そのせいで平凡に別れを告げられて俺のせいだと怒ってなぐりかかってきやがった。結局全てを暴露して、元さやに戻ったんだが、まあ、何て言うか…その時のこいつ、この平凡な男が、何て言うか、すげえ事をさらっと言いのけやがったのだ。

そりゃあ惚れるわな、なんて思うくらいに、迷うことなくかっこいいセリフを言ってのけた平凡。他のやつが言ったらただサムイ言葉のそれが、すげえドストレートにキタ。正直、うらやましいとさえ思ったんだ。

「あほらし、俺は行くからな」

一緒に歩いていたこいつらに捨て台詞を吐き捨てて一人スタスタと歩き出す。これ以上見てられるかってんだ。

俺は、この学園で生徒会長をしてる。文武両道、容姿端麗。まさに生まれながらに恵まれた俺は、人に頼られることはありさえすれど自分が誰かに頼ることなどしたことはないし考えたこともなかった。だから、あの二人の…平凡の、あいつを何もかも包み込むような包容力が、うらやましいと思ったんだ。

もやもやと何だか晴れない気持ちのままに放課後遅くなった図書室の扉を開ける。

「こんにちは、会長」
「…ああ」

誰もいない、暮れかけた日の差しこむこの部屋に一人窓際の席に座って本を読む男が俺の姿を見るなり挨拶をしてきた。こいつは、風紀の平委員の一人で俺より一学年下の二年生だ。見た目は、至って平凡な男。
挨拶を交わして、目当ての本を取るとそいつの二つとなりの席に着く。一つ分わざと開けた席に座ることを何も言わない。互いに挨拶を交わした後、特に何も言葉を交わすことなくただページのめくる音が静寂の中に響く。俺はこの時間が何よりも好きだった。

コイツと初めて会ったのは、幼馴染がめでたく元さやに戻った次の日の事だ。今までは、彼氏に迷惑を掛けたくないからと無理やり俺を連れてこの図書室に来て勉強を見させられていたがそれがなくなった事でなんとなく手持無沙汰で一人ここに来た俺。誰もいないはずのそこに、こいつがいた。
この学園の奴らは、俺みたいなハイスペックな人間に媚を売るようなやつばかりで生徒会長をしていることもあり俺と二人きりになったやつは大概色目を使ってくる。こいつもそうじゃないかと身構えて眉間にしわを寄せたが、こいつは俺に対して何の興味も示さなかった。扉が開いたことで俺の方を向きはしたが、それだけ。すぐに読んでいた本に目を戻し、俺に全く関心なんてないようだった。

それが珍しくて、なんとなく近くに座った。一つ席を空けた隣にわざと座ってやると、他の奴らは意識してちらちらとこっちを見るのが普通なのにこいつは全く俺の方を見もしなかった。
カバンの中から教科書とノートを出して、勉強を始める。こんなに落ち着いた空気は、生まれて初めてだった。

コイツとあいさつを交わすようになったのはそれから二回ほど会った後。俺が落とした鉛筆を拾ってくれた。その時に礼を言って、それに返事をしたのが初めての会話。その初めての会話も、たった一言かわすだけ。それ以降、そいつは俺になにも声をかけなかった。
次の日、俺から挨拶をしてやるとちょっと驚いたような顔をした。でも、きちんと返事を返してくれた。
たったそれだけ。
たったそれだけの会話がひどく心地よくて、この空間が心地よくて、おれは毎日図書室に通った。

そんなある日、いつもと同じ図書室の窓から幼馴染のあいつが彼氏と中庭にいるのが見えた。仲良くベンチに座って何やら楽しそうに話をしている。しばらくなんとなく目が離せなくて二人を見ていると、そのうち幼馴染はこてんと頭を傾けて平凡の方に乗せた。それを、平凡が優しく頭を撫でて…。

俺は、思わず目が釘付けになった。心底、うらやましいと思ったんだ。

それからなんとなく、一つとなりに座る平凡をちらりと見た。なんてことない、どこにでもいるような本当に平凡な男。なのに、目が離せなくてしばらく見つめてしまった。

「…おれは、あの人じゃありませんよ」

俺が見つめていることに気が付いていたのだろうか。平凡が本から目を離さずにぽつりとつぶやいた。とたんに、顔がかあっと熱くなる。
気が付けば俺は、走って図書室から飛び出していた。


あれから、一週間過ぎた。俺はあの日から図書室に行っていない。あいつに会うことが怖くて、避けているんだ。
自分でも情けないとは思う。それでも、あいつにあの時言われた言葉…。あの一言が、トゲになって刺さったままチクチクと俺を苛む。

アイツが、うらやましかった。幼馴染のあいつは俺なんかと違って可愛らしくて、甘え上手で、誰もがあいつに手を差し伸べたくなる。アイツの言うことを聞きながら、俺は内心わがままなアイツなんか手に余るだろうと、アイツがどれだけかわいくてもそれに付き合いきれるやつなんかいないだろうと思っていたんだ。でも、現実はどうだ。ご覧のとおりアイツは自分を丸ごと包んで甘やかしてくれるあの平凡という彼氏を手に入れた。
悔しかった。別にアイツが好きだったわけじゃない。ただ、自分と違って素直にわがままを言ってもそれを受け入れてもらえるアイツがうらやましくて。結局それが許される、俺がどうやっても手に入れることのできない全てを持っている幼馴染に、嫉妬していたんだ。

図書室のあいつを、幼馴染の彼氏に重ねていたのは本当だ。俺に何も興味を示さないその態度が似てた。無言で俺を受け入れてくれたような気になってた。だから、こいつがあの平凡みたいだったらなと思っていたんだ。

自分が恥ずかしくて、情けなかった。あの平凡の様に俺を甘やかしてくれるんじゃないかなんて、勝手に自分の欲望を押し付けて望んでた。自分が多くの人間からどう思われているかをわかってて、それがあいつにも通用するんじゃないかってひそかに期待してそう望んでたんだ。自意識過剰もいいところだ。

ため息をついて、誰もいない放課後の廊下を歩く。俯いて歩く足元にふと影が差し、何事かと顔を上げると目の前に見たことの無い生徒がいた。何か用か、と声を掛けようとした瞬間、後ろから口元に布があてられ、すぐそばの教室に引きずり込まれ目の前にいた生徒がニヤついた笑みと同時に一緒に教室に入り後ろ手に扉を閉めたのが見えた。

「何だ、貴様ら!」
「何って、俺たち健全な男子校生徒ですよ〜。ぜひとも生徒会長にこの健全な性欲を満たしてもらおうと思いましてね。最近一人で放課後歩いてるのをよく見かけて、丁度いいってんで今日やっちまおうってなったんですよ」

しまった、油断していた。普段なら二人ぐらいなんてことないが、ぼうっとしている所を襲われあっという間に後ろ手に縛られてしまった。床に転がされ、自由にならない体を必死に捩って距離を取ろうとする。

「来るな!俺に指一本でも触れてみろ、後悔するぞ!」
「そりゃ怖いな〜、じゃあそんな目に合わない様に会長を脅すネタをしっかりつかんどかなきゃね〜」

そう言って奴らはスマホを取り出し、何やら操作して俺に向かって固定した。やばい、今からこいつらは俺を犯してそれを録画するつもりだ。

「くるなっ!」
「いつまでその強気が持つかな〜、さあ、ぬぎぬぎしまちょうね〜」

ニヤニヤと笑いながら二人の生徒が俺に近づき、服に手を掛ける。暴れる体を押さえつけられ、なすすべもない。

ああ、そうだ。俺には、幼馴染のあいつみたいに守ってくれる人なんて誰もいない。今までだってそうじゃないか。自分の事は自分でしろと言われてきた。ここに入ってからだって、俺はいつだって誰かに頼られ守る側ばかりで、自分がそうされたことなんてなかったじゃないか。

俺だって、誰かに助けてもらいたいことだってあったのに。

ぎゅっと目を閉じると今まで上にのしかかっていた重みが消えた。

があん!と机がなぎ倒される音がして、閉じていた目を恐る恐る開ける。すると、倒れている俺の前に俺を守るようにして立ちふさがる一人の男の背中が見えた。見覚えのあるその後ろ姿にどうして、と胸が大きく跳ねる。

「大丈夫ですか」
「…」

前を見据えたまま俺を見ずに言う一言には、不思議なほどに安心させる力があった。

「現行犯だ。風紀室へ連行する」
「はっ、お、お前みたいなひ弱そうな奴一人に何ができんだ!」
「ひ弱だなんて、見た目で人を判断しないことだ」

俺を押さえつけていたやつらが床に尻もちをつきながらも強気に言い返す。見た目できっと自分たちの方が有利だと思ったんだろう、少し動揺しながらも立ち上がり拳を鳴らしてじり、と近づいた。

「お、おい!逃げろ!相手は二人もいるんだぞ!」
「逃げませんよ。…―――、」


気が付けば、俺を襲った二人はあっという間にこの平凡なはずの風紀委員に沈められていた。

「大丈夫ですか」
「あ、ああ…」

俺の腕の縄を解きながら問いかけるそいつにそう返すのがやっとだった。怖かった。自分がこんな目に合うだなんて、思ってもみなかった。今になってがくがく震えだした体を一人で必死に抑えようとしていると、ふわりと俺を包み込む温かい腕があった。

「…な、」
「…俺は、あの人じゃありません」

ぎゅう、と抱きしめながら前と同じことを言われ、息が止まる。

「…あの時のこの言葉には、続きがあります」
「つづ、き…?」

もう一度、改めて自分の卑怯な部分を指摘された気分の所に続きなんて言われてもしかするとそう言ってこいつを傷つけたことを責められんのかな、なんて思うと怖くなってぎゅっと目を閉じた。

「俺は、あの人じゃありません。…でも、あなたにとってそうでもいいと思えるほど、俺はあなたが好きなんです」
「は…?」
「あなたが望むなら、あの人の代わりにだって喜んでなりますよ。そう思ってもいいほど、身代わりに使われたとしてもいいと思ってしまうほど、俺はあなたに夢中なんです」

ぼそりと小さくつぶやかれたそれは、俺の世界をそいつ一色に染めるには十分で。先ほど、俺を守るために立ちふさがるコイツが呟いた一言が鮮明に蘇る。

『逃げませんよ。あなたは俺の唯一無二の守りたいと思う人だから』

大きな光の束が俺に向かってふりそそぎ、全てを洗い流していくようなそんな気持ち。妬みも、嫉妬も、卑屈な心もすべてを飲み込んでいく。

「…身代わり、なんかじゃない…」

そうだ。俺にとって、こいつは。

「お前だから…」

身がわりなんかじゃない。似ているからと言って、あの平凡のつもりで見ていたわけでもない。

コイツだからこそ。

そっと、噛みしめる唇に指を伸ばし、そのまま頬を撫でるそいつを見上げる。目が合えば、俺を見つめるその目が愛おしいと言っていた。

「うぬぼれますよ」
「…ああ、うぬぼれてくれていい。」

俺に興味なさげにただひたすら本を読む平凡。いつしか、その空間が心地よくて。こいつの姿を真っ先に捜して。
こいつだから、探していた。こいつだから傍にいたかった。こいつだからあの空間が好きだった。


「お前が好きだ」
「…俺もです」


泣きながらに伝えた心は、同じ灯をともして俺を温かく包んだ。


「そういえば…、お前、強いんだな…」
「ええ、実家の父が厳しく、『男たるもの愛する者をその腕で守れないようでは男とは言えない』と武術を一通り習わされましたから」

だから、あなたの事は俺が守りますよ。何があってもね。

そう言われて、柄にもなく真っ赤になってちょっと甘えてみると優しく肩を抱き額にキスをしてくれた。


end


[ 4/42 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]