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俺様美形×健気平凡

「おい、腹へったからなんか作れよ」
「…わかった」

えらそうに部屋の真ん中でふんぞり返って俺を顎で使う男に言われるままにキッチンに向かい、鍋に水をいれる。食材を探して冷蔵庫を開けて物色していればふいに後ろから抱きしめられた。

「おい、」
「やっぱ気が変わった。ヤらせろよ」
「やめ…」
「嫌ならいいぜ、違うやつ探してくるからよ」

くくく、と喉をならして笑いながら平気で残酷な言葉をはかれ、ぐっと唇を噛んで俯いた。

「…せめて、ここじゃないとこで、がいい…」
「くくっ、ここでヤったら料理するたびに思い出すからか?おまえ、俺が好きだもんなあ」

図星をさされてカッと顔を赤くすれば、後ろのやつは俺の胸をまさぐりながら耳元でそう囁かれますます顔が赤くなった。

そうだ、俺はこの男が好きなのだ。大学ではじめて知り合ったこの男は、やたらに整った顔をしていた。頭もよく、運動もできる男を周りがほっとくわけがなく。

いつだってちやほやと祭り上げられ、自身の事をよく知っている男はやけに俺様だった。
そんな男にこっそりと恋をしていた俺は思いを告げる気はなかったのにふとしたことでバレてしまった。
飲み会の席で、運がいいのか悪いのか隣にこいつが座った。好きなやつが隣に来たことで、緊張しまくった俺はいつも以上にハイペースで飲んでしまい…目が覚めると、ラブホでこいつと同じベッドで寝ていた。
話を聞けば、ぐだぐだになった俺を連れて帰ろうとしてくれたが泥酔していて歩くのもままならない。そのうち俺がこいつに『ラブホにつれてけ』と絡んだらしい。

好きだから、何でもするから、セフレでいいから、
そう言ってこいつに無理やり迫り…自分を抱かせたそうだ。
話を聞いて、真っ青になって土下座する俺を笑いながら男は言った。

『そんなに俺がほしいのか』

と。それに、頷いてしまった俺は大馬鹿者なのだろう。
その日から、俺はこいつにとってセフレなのだ。

便利なコマが一つ増えた、くらいの感覚なんだろう。ことあるごとに俺を好き勝手に使い、『俺が好きだもんなあ』と決め台詞のように言われては逆らえない。だって、その通りだから。
俺は、こいつが好きだから、何でも言うことを聞いてしまうんだ。


アイツが好きだから。それだけで頑張るには俺は結構ギリギリのところまで追いつめられていたらしい。
それはある日突然訪れた。

「おい、こっち向け」
「なに…、…おい?」

ある日、いつものように男が俺の家に当たり前のようにやってきて当たり前のように俺に食事を用意するように言った。ため息を軽くつきながら言われた通りに動いて片づけをしていると、男がそばまでやってきて急に洗い物をしている俺にそう命令した。何事かとも思いながらいう事を聞いて男の方を向けば、その場に押し倒されて着ていたシャツを手早く脱がせたかと思うと後ろ手で俺の体を拘束した。

「なにすんだよ!」
「なにって、ナニだよ。お前を気持ちよくしてやろうと思って?」
「なん、…っあ!」

にやり、と口元をひときわ悪そうに歪ませた男はそのまま俺のズボンまで脱がせてぎゅっと息子を掴んできた。そしてそのまま、上下に擦り刺激を与えてくる。
それだけじゃない、はだけさせた胸にも手を近づけたかと思うと反対の手で俺の乳首を摘まんで刺激してきた。

「な、ん…っ、あ、や…っ!」
「まあまあ、ンなに嫌がんなよ。さっきも言っただろ?気持ちよくしてやるんだって」
「いや、いやだ…、手、ほどけよ…っ、んっ、」

せめてちゃんと抱いてくれ、と言えば男はひどく楽しそうに俺をバカにしたように笑った。

「は?何言ってんの」

俺の弱い所を両手で責めながらひどく冷めて見つめられる。

「お前を気持ちよくしてやるって言ってんだろ?誰も抱いてやるなんて言ってねえぜ」

笑いながら告げられた言葉は、俺には全く理解できなかった。体は熱いのに心は冷えていく。どうして、なんで。こいつは今から俺に一方的に快楽を与えるつもりなんだ。
こんなの、暴力と同じだ。だってそうだろう?

止めてくれ、せめて腕をほどいてくれとどれだけ必死に懇願しても、男は俺の性感帯を手だけで責め続け、幾度も絶頂を無理やり迎えさせられた。

やっと男が満足したのか俺の体が解放されたのは、それから2時間ほどしてからで男の手が離れてから俺はもう息絶え絶えに、拘束された体をぐたりと倒していた。

「あ〜あ、ぐちゃぐちゃ。体洗ってこいよ」

拘束していた腕を解放して、男が自分の手を拭いて俺を見ようともせずにテレビをつける。俺はがくがく震える体を起こしてそこに投げ捨てられたシャツを掴み、それを羽織った。

「おい、何してんだ?早く行けよ」
「…もう、やめる…」
「は?」

一向にそれから動こうとしない俺に眉を寄せながらシャワーを促す男に、ぽつりとこぼせば男はひときわ眉をしかめて俺を見た。

「何言ってんだ?」
「だから、言った通りだ。もう、お前とこういうことすんの、やめる…」

震えながら告げれば、しんと静寂が響きテレビの音だけがやけに耳について聞こえた。
しばらく黙って俺を見つめていた男ががりがりと頭をかいて大きく息を吐き出す。

「なんだよ、俺のこと好きなんだろ?」
「…好きだよ。だから今までお前に言われたことは何でもいう事聞いてきた。そうじゃないと俺みたいな平凡、相手になんかされないとと思ってたから。
…でも、もういい。
好きだからって、何をされても平気なわけじゃない…。好きだからこそ、傷つくし辛い…」

お前が俺のことを都合のいい相手だとみてるとしてもそれでよかった。だけど、今日みたいなのは嫌だ。玩具みたいに扱われて、俺が何であるかも全く関係が無いような、そんな風に遊ばれるのは嫌だ。

「おい、」
「っ、さわるな!」

伸ばしてきたやつの手を思い切り払えば男は驚いたように目を見開いた。怒ったかな。でも、それでいい。怒って俺を捨ててくれるならそれも本望だ。

「お前が、好きだったよ。だけど、好きだからって何をされても許せるわけじゃない。好きな人に人間とも思えないような扱いをされてまで平気でいられるほど強くないんだよ…!」

泣きながら叫べば、目の前の男が息をのんだような気がした。それからひどく傷ついたような顔をして俺を見る。

何で、何でお前がそんな顔をするんだ。ああ、あれかな。俺みたいな自分の言いなりになる男にエラそうに言い返されたのが悔しいのかな。

自分が何とも思われていないんだと嫌というほど思い知らされた。どれだけ尽くしても、愛をぶつけても決してそれは相手には届かないんだと知った。
それでもいい、と思っていた。だけど、実際はそうじゃなかった。

俺は自分の心を無理やり押し込めていた。

本当は、愛を返してほしい。好きになってもらいたい。

だけど、それは絶対にかなう事のない夢なんだと知った。
だから、もういい。最後の最後に、張り詰めていた一本の糸が切れてしまったかのように、俺は男への好きという気持ちよりも一緒にいることの方がつらいと思ってしまったのだ。

「…俺が、シャワー浴びてる間に出ていってくれ…。合鍵は捨ててくれ」

そう言って軋む体を無理やり起こして風呂場へ向かおうとすれば、急にグイッと引っ張られて俺の体は男の腕の中に閉じ込められてしまった。

「なに…、はなして、」
「いやだ」
「離して…、はなせっ、離せよ…!」

ほんの少し前ならば、こんなことをされれば喜んで涙を流しただろう。だけど、今男に触れられると心が痛いだけだった。
暴れて逃れようとする俺、逃がすまいと拘束をキツくする男。しまいにバカみたいに泣き叫んで男を拒否すれば、男は小さく俺に謝罪をした。

「悪かった。謝るから、頼むから逃げようとしないでくれ」
「いや、いやだ、いやだ」
「頼む、二度としないから。落ち着け」

俺を宥めようとする男の顔は、見たことがないほど泣きそうになっていた。だけど、限界を振り切った俺は男を気遣う余裕なんて全くなくて、それどころかそこまでして俺を自由にしたいのかなんて思ってしまった。
今までだったら絶対にそんな風に口答えなんてしなかったのに、そんなセリフが口から出てしまった。

「そ、そうやって、甘い蜜を与えて、懐柔させとけばいいと思ってるんだろう…?お前が好きだから、一回優しくしておけばいいって、」
「ちがう!」
「ちがわない。だって、お前は知ってるから、俺が、お前が好きだから、優しくされると喜んで言うこと聞くとか、またお前の言いなりになるの、知ってるから、」

何を言われても素直になんて聞けやしない。好きなのに、好きなやつの言葉を聞こうともできないなんて

「もういやだ…」

お前を好きな自分も、好きなくせに頑張りきれなかった俺も。
脱力して呟けば、男は今まで押さえつけようとしていた力づくな抱き締めかたではなく、壊れ物でも扱うかのように抱き締めてきた。

そんな風に優しく抱きしめられたのは初めてで、頭を撫でられてぽろぽろと涙がまたこぼれる。
もっと早く、こうして欲しかった。いつかこんな風に優しく抱きしめてくれたら、なんて思っていた。
それが、今だなんて。

「…本当に、すまない。悪かった…。だけど、信じてくれ。俺は、お前をおもちゃ扱いした訳じゃない。
…好きなやつじゃなきゃ、男相手に勃ったりしない」

驚いて顔をあげれば、ひどく情けなく顔を歪ませた男がいた。

「さっきだって、あんな風にしたのはお前がかわいかったから…俺の手だけで乱れるお前がすげえかわいくて、ずっと、ずっと見ていたかっただけなんだ。泣いていやがるお前を見ても、俺を好きだから何でも許してもらえるだろうなんて思って…お前が寄せてくれる好意に、あぐらをかいてたんだ」

ほほを撫でながら、聞いたことがないほどに優しい声で紡がれる言葉は、ずっとずっと俺が欲しかった感情が込められていた。

「わざと言わなかった。お前からもらえる好きが心地よすぎて、お前からずっと欲しかった。…俺がそう思うってことは、お前もそうなんだとどうして思ってやれなかったんだろうな…」

男の声色や表情は、本当に後悔しているように見えた。いつもの高慢で尊大な態度なんてかけらも見えなくて、逆に俺の事を伺っているようだった。

「頼む。やめるだなんて、言わないでくれ。俺を好きでいてくれ…過去形にしないでくれ」

そう懇願する声が、震えていた。声だけじゃない、よく見れば俺を抱きしめるその腕も震えている。だけど、

「…もう、しんどいんだ…。お前、の、気分次第で、抱かれたり」
「ちゃんとお前の気持ちを尊重する」
「…っ、さ、さっき、『抱いてやらない』って、」
「二度と言わねえ。むしろお前に俺が『抱かせてくれ』って頼む」
「い、いやだって、何回も、」
「お前の嫌がることは二度としない。あんな扱いも二度としねえ」

身をよじって弱々しく逃げを打ちながら、今までだったら絶対に言わなかった自分の気持ちを口にすれば即座に返される。
どうしてそこまでして俺を傍に置いときたがるんだろうか。俺が、好きって言うから?それが気持ちいいから?その優越感に浸っていたいから?


「好きだから。お前が好きだから、お前にそばにいてほしい。お前の傍にいたい。お前を抱きたい。…頼む」


俺を抱きしめ、俺の肩に顔を埋めて呟く。
それは、ずっとずっと欲しかった言葉。

「…、好き、」
「おれもだ」
「それを、利用されるのは、もういやだ…」
「しねえ。むしろ逆に、今度はお前が利用しろ。俺を好き勝手に扱えばいい。お前が好きだから…お前のいう事は何でも聞いてやる」

そうまでしても、お前が欲しいんだ。

それは、俺がセフレになる前に男に聞かれた言葉。この男が、おれを、同じように欲しがってくれる…?

恐る恐る、震える腕を上げてそっと男の背中に手を回す。

「…じゃあ、ずっと…ずっと、好きって言ってくれる…?」
「いくらでも言ってやる」

引き裂かれた心が、ゆっくりと温かいもので包まれ癒される。
まだ少し怖い気持ちはあるけれど、この男が言ったことを信じたいと思った。


end

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