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The luster of the firmament



太陽は既に没していた。日没に続いて、短い間ながら昼と夜の仲裁者として、地上に黄昏を齎す役目を担っていた宵の明星も没していた。今や、地球の半分を覆う夜が、辺り一帯の地平線を隅から隅まで包み込んでいた。サラは遠くで鳴る賑やかな街の音を聞きながら、砂浜に身を横たわらせた。今夜は船番である。静寂な、晴れた夜空を仰ぐ。詩人や賢人が歌った天空の輝きとはまた違う、自分の内だけに存在する輝きが其処には見えた。それは心を占める、ある存在と共に一層神秘さを増し、偉大な夜という腕、あの温かくて頼もしい生命に抱かれているような感覚を齎す。まるでその夜空は自分の心そのものであった。サラは果てのない幸福を感じたが、寥々さも同時にその身に迫った。ただ隣にいてくれたら。静かに、私と二人で……。彼と別れる日が待ち遠しくもあり、この魂が裂けるようでもある。それぞれの人生に戻ると、彼と過ごした日々は時間が経つにつれて縹渺になっていくのだろう。あの彼の声を忘れるだろうか。彼の雰囲気、彼の表情を忘れるだろうか。自分を見詰める、あの優しげな黒い目を。これが神聖な愛であったなら、恐らく、ずっと忘れないのだろう。サラはこの夜空に浮かぶ光輝な星々を眺めた。僅かに潤んだ彼女の瞳によって、それらは尾を引いて見える光の筋になった。

精神上の傷は、人目にこそ触れないが、決して癒着する事のない事をもって特色としている。それはいつも苦痛を訴えるものであり、人の手が触れれば直ぐに血を流し、心の中でいつも生々しく、いつも口を開けているものなのだ。一人、船へと戻って来た錦えもんは船着場にて足を止めた。人の気配を感じた為に振り返った。すると、少し離れた砂浜には、黒い空をぼんやりと眺めているサラがいた。その美しい横顔は何処か泣いているようにも見えた。僅かな数秒の間、錦えもんはそんなサラの姿に見惚れた。彼女の美しさに接する時、あの女が己の全てであるという事実を突き付けられるのだ。錦えもんはその苦痛を帯びた黒い目を逸らし、鞘に手を添え、船の中へと入って行った。

サラは見張り台へと登った。あの夜を忘れた事はない。幾度となく過ごした夜を忘れた日はない。私が好きなら、此処へ上がって来て。脳裏に浮かんだ、錦えもんと過ごす柔和な時間。この大宇宙の、この天空の輝きを共に見るという、他の何物にも変えられぬ幸福。私を愛しているのなら、会いに来て。サラは激しく高鳴る鼓動にその深緑の瞳を優しく細め、微笑んだ。だが今夜、錦えもんがサラの前に現れる事はなかった。ただ、彼の気配は徹宵、感じられた。