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Who’s to say you won’t hear me?



こんな老いぼれひとり倒せないなど、よくもまァ彼女の恋人になろうと思ったね──グギギと悲鳴をあげる男の骨の音を聞きながら、こんな根性の悪い自分を見るのは酷く久しぶりだと思った。ただの若い男をこの自分が容赦なく踏みつけているものだから笑える。だが私は特に気にすることもなく彼の恐怖に染まった瞳をじっと見ていた。何か言うかと待っていたのだが、彼は唇を噛み締め残っている力を振り絞って、私から逃げようとするだけだった。オイオイ、君は本当に男か?そもそも私は喧嘩に弱い男は嫌いなんだ、嫌いというか、大嫌いなんだ。あァそれと、平気で敵に背中を見せる男も大嫌いなんだよ。彼こそ、私に比べたらまァ罪のない人間、なのかも知れないが、他人の女に手を出すなど御法度だろう。特にこういうタチの悪いおじさん相手では尚更だ。この男どうしてやろうかと思ったが考えるのも面倒だったので一発本気で殴ってやった。その時ふと脳裏に浮かんだのは彼女の優しい笑顔──すまないね、キミがやっと掴んだ幸せはたった今私が叩き潰したよ。だが悪いのは私ではなく、私を夢中にさせたキミだ。私を溺れさせたキミだ。もう一発いっておいてもバチは当たるまい。
清々しい気持ちでぼったくりバーに入るとサラがニコニコした表情で食器を拭いていた。いつもならそんな大量の食器、毒づきながら片づけるのに今日は鼻歌を歌いながら要領よく拭いている。
「何かいいことでもあったのかね」
椅子に腰かけながら彼女にそう言った。すると待ってましたとばかりに大きな瞳からキラキラ星を出しながら「レイリーさん、わたし今度デートすることになったんです!」と拭き終わった皿をガシャン!と置いた。
「デート?──あァ、前言っていた子とかね?」
「ええ!ええ!」
サラは舞い上がっている気持ちを静めるように胸に手を当ててゆっくり深呼吸をした。私はそんな彼女を見てクスリと笑ってしまった。生まれて初めて恋人ができました!と私に報告してきたのが二日前のことだった。そうやっていちいち私に言ってくることにまだ彼女が子どもだということを気づかされる。子どもといってもティーンではないのだが──全く罪な娘だ。
「緊張しているな?」
「そ、そんなッ!緊張なんてしてるわけないじゃあないですかあ!」
ハハハッと笑う彼女と私の声がバーに響いた。彼女は知らない。私がさっき彼女の恋人を半殺しにしてきたことを。そして明日のデートには来ないということを。もし来たりしたらどう逝かせてやろうか、と酒の入ったグラスを傾けていたら「じゃあレイリーさん!わたし、お先に寝させていただきます!」とまだ夜の九時なのに張り切っているサラに私は「あァ、おやすみ」と手を振った。
またまたひとりになってしまった彼女に何て声をかけようか。だが私が声をかけたところで彼女は泣き止まないだろうなァ。悲しんでいる彼女を目の前にして笑いを堪えている自分を容易に想像できた。全くこの性格も変わらない──変わらないどころか益々酷くなっている。まァ、キミの人生はまだまだ長いのだし、あんなひょろい男よりもっといい男をキミなら捕まえられる筈だ。というか、もう捕まえているじゃないか。