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Run until you feel your lungs bleeding



第四次忍界大戦が終結し、木の葉の暗部は解体された。結果的には勝利したが大勢の若い忍が戦死した為、里は怒りや悲しみで溢れ返っていた。同時期に志村ダンゾウの活動が表沙汰となり、何処にもぶつける事の出来ない漠然とした感情を人々は発散させた。志村ダンゾウは善人ではなかった。彼の残した物はどれも倫理に欠け、彼の計画で犠牲になった忍も数え切れない。だが彼の、この里を守ろうとした意志だけは闇に葬られた。人々は裏にある事実に目を向けようとはしない。組織で彼に利用されたが、己を認め、生き抜く方法を教え、その手で直接鍛えてくれた。この里を根から支える忍となれ。その言葉と共に、小雪の中で彼の存在は今も静かに生き続けている。暗部の者や過去に関わっていた者が次々と摘発され、冷たい暴動が至る所で起きた。そして遂に自分にもその矛先が向けられた。
朽ち果てていく自分の家を見下ろす。見えないもので繋がり連帯している人々が狂ったように暴れ叫んでいる。寂寞の中から怒りが這い出る。小雪は向かいの家の屋根に座り、一人一人の顔を脳裏に焼き付けるように睨んだ。酷い痛痒を感じる。彼らは彼らの為に落とした命の上に立っている事を忘れている。今の里があるのは勿論歴代火影や木の葉の忍のお陰である。だが殉職者の碑に名前を掘られぬ忍、墓を建てて貰えぬ忍──志村ダンゾウ率いる暗部がいたからこそである。小雪は最後まで、彼らが全てを破壊し尽くし自分を探し始めるまで、その場で見届けた。

同じ夜、車椅子を壊しそうな凄まじい音を響かせながら会いに来たガイが「暫く旅に出よう」と言い出した。木の葉の額当やマイトスーツ、下着に辛さ10倍レトルトのカレーが入ったリュックを小雪に見せると得意げに身体の前にかけた。目を細めナイスガイポーズを決めた彼だが、ついこの前死門を開いたのだ。患者衣から覗く身体は痩せ、目からは疲労を感じる。里の様子を誰かから聞いたのだろう。寝てないといけないのに、と彼の右脚を見た。彼もその一人だ。この里を、この世界を守ろうと命を投げ出した一人。小雪はガイを説得し、はたけカカシが火影の座に就くまで身を隠し、そしてまたこの木の葉に戻って来ると約束をした。あれ程までに感じた怒りや不安。そんなものは全て彼が取り除いたのだ。私には彼がいる。彼と生きるのだ。多くの無冠たる忍が守り抜いたこの里で。
「また会おう、必ずだ」
誰も小雪を責める事は出来はしない。お前が一時の激情の犠牲になる事はない。今木の葉は本来の姿を失っている。その頬を涙で濡らす必要はない。俺の心は常に、お前と共にある。くしゃりと笑ったガイと握手を交わすと向こうから医療忍者らしき者が数人走って来るのが見えた。病院を抜け出した彼を探していたのだろう。ガイの名前を鬼のような形相で叫んでいる。小雪は走った。肺が悲鳴を上げるまで、木の葉に背を向け走り続けた。脳裏に焼き付けた筈の、あの人々の顔はもう思い出せない。

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