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Omega station



真田の私室のコルクボードに写真が二枚貼ってあった。どちらも自分との写真だ。他は専門書しか置いていない為にそれらが遊離している。彼がそんな物を手元に取っておくなんて、と小雪は顔を少し綻ばせた。ベッドに腰掛けていた小雪の隣に真田が座った。
「潮の香りがする」
真田が口を開いた。二人の視線が合う。
「ちょっと泳いだから」
此処イスカンダルで彼女の返事を待つ間、ヤマトの船員達と海で泳いでいた。そこで恋人の姿を探すも案の定おらず、彼の私室へと訪ねて来た。
「懐かしい」
真田は小雪の髪に手を伸ばし、微かに濡れた毛先に触れた。少しの間眺めてから手を離し、ベッドに左手を付き身体を小雪の方へ向けた。机のスタンドライトだけが点いており、部屋は薄暗かった。
「この前夢を見た」
彼の声が好きだとつくづく思う。心地良くて、迷いのない頼もしい声。男の色気があって、でも何を企んでいるのか分からないような危うい声。
「君と初めて出会った時の夢だ。最悪だったよ」
「最悪?なんで?」
「君が気になって仕方ないのに、話しかけられない」
小雪は声を出して笑った。確かに彼は無口だった。秀才の容貌に、すらりと高い背。物思いに耽って他の人とは違う印象を与え、人と親しくなろうという気持ちがないように見える。彼の気難しい選択に私の何が適ったのか分からないけれど、それから良く会うようになったのだ。
「何を話せば良いのか見当がつかないんだ。初めてだったよ、あんなに焦ったのは」
戦闘機がいくら飛んでいたとしても見間違える筈はない。彼女の飛び方があるのだ。それを目で追う。毎日研究室に缶詰状態であった為、無意識の内に受けていた圧がすうと溶けるような感覚だった。小雪と出会うまで虚ろな自分であった事を思い知ったのだ。真田はその頬に微かな羞恥の表情を示しながら、桃色に染まる空を泳ぐ小雪を見つめた。その瞬間が真田にとって永遠となった。もっと彼女の事を知りたい。もっと彼女を見ていたいと思った。
「俺は君を守りたいと思う。だが実際のところ、君が俺を守っている」
真田が目を伏せた。小雪は知っている。自分が乗る機体も、このヤマトも、この人なしでは存在しない事を。地球に希望を齎し、それを実現させているのはこの男である事を。だが彼はもっと改善出来たのではないかと思っているだろう。此処イスカンダルに着いても尚。
「そうよ、感謝してね」
小雪は恋人の頬にキスをした。守ってあげる。これからもずっと。途端、真田の胸に溢れる豊かな喜び。脈打つ心臓を彼女のものと重ね合わせる。真田の手が彼女の肩胛骨を撫でた。地球は助かる。一緒に帰ろう。